研究概要 |
これまで、排泄側のトランスポーターの機能解析は、主に膜ベシクルか排泄トランスポーターを発現した細胞が用いられてきたが、膜ベシクルでは、輸送活性の小さい化合物の評価が困難であり、また、排泄トランスポーター発現系では、取り込みにもトランスポーターを要するような化合物の輸送の評価が困難である。従って、本年度は、主に肝排泄側のトランスポーターの寄与の解析を行うため、取り込み側に、基質選択性の広範な有機アニオントランスポーターであるOATP(organic anion transporting polypeptide)1B1を、排泄側に、multidrug resistance(MDR)1,breast cancer resistance protein(BCRP)のそれぞれを極性細胞であるMDCKII細胞に共発現した細胞株を構築し、以前に研究室内で構築された、OATP1B1/multidrug resistance associated protein(MRP2)の共発現系と併せて、有機アニオンの肝排泄の寄与率を検討した。その結果、今回用いた4種の化合物(estradiol-17β-glucuronide(EG),estrone-3-sulfate(ES),pravastatin, cerivastatinについては、いずれもすべての細胞でbasal側からapical側への方向性輸送が観察されたことから、これらは、すべてMDR1,MRP2,BCRPのいずれもの基質になることがわかった。以前にラットでMRP2が胆汁排泄の大部分を担っているといわれているEGやpravastatinについては、MRP2のクリアランスが、他の2種と比較して大きい値を示すことがわかった一方で、ES,では、BCRPが大きく、cerivastatinでは、MDR1,BCRPとも、ほぼ同じ値を示したことから、同じ有機アニオンでも、3種の排泄トランスポーターの相対的な寄与が異なることを明らかにした(論文投稿中)。また、肝疾患治療薬ウルソデオキシコール酸の肝輸送の寄与率の評価を行い、NTCP, OATP1B1,OATP1B3が代謝物により異なる寄与で肝細胞に取り込まれていることを見出した(論文投稿中)。この知見は、ある状況下(SNPs,薬物間相互作用など)で、特定のトランスポーターの機能が変動したときに、肝輸送がどのように変化するかを考察する上で有用な情報となりうると考えている。
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