マラリア原虫生殖母体分化の制御に関わることが予想される候補遺伝子群について、熱帯熱マラリア原虫ゲノムデータベースからスクリーニングした。さらに、逆遺伝学的手法が比較的容易なネズミマラリア原虫のホモログを検索し、合計86個の遺伝子についてノックアウトネズミマラリア原虫を作製した。各ノックアウト原虫について、1)赤血球内での発育、2)生殖母体形成率、3)蚊の体内での発育、4)蚊からマウスへの感染性について解析した。 ノックアウト原虫の表現型を解析した結果は以下の通りである。 (A)Wild type原虫と相違が見られなかった(46個)、(B)生殖母体形成率がWild typeと比較して10%程度に低下した(3個)、(C)原虫の生存にとって必須であるためノックアウトができなかった(21個)、(D)蚊の体内での成育に必須な遺伝子(15個)、(E)蚊からマウスへの感染に必須な遺伝子(1個)。 (B)に関しては、生殖母体形成率を0%にするほどのキー遺伝子を発見することはできなかった。しかし生殖母体形成能を低下させた遺伝子群は、いずれも共通したシグナリング上で機能することが推定されていることが判明した。 (C)いくつかは代謝酵素であり、それらの酵素学的な性質を調べることで新規な抗マラリア薬の開発の可能性を示唆した。 (D)蚊のステージで必須な遺伝子は今まで世界中で10個ほどしか報告されておらず、ほとんどが原虫細胞膜表面に存在しているという点で類似している。本研究課題では2年間で15個もの遺伝子を同定した。さらにすべての遺伝子は機知の遺伝子産物のような細胞膜上の分子ではなく、細胞内に局在し、MAP kinaseカスケード上で機能することが推定される遺伝子であることが特徴である。これらの遺伝子群を詳細に解析することで、マラリア原虫と蚊の相互作用の理解につながる可能性を示した。 (E)昨年12月にNature誌で初めて報告された表現型である。本研究課題において見つかった遺伝子はそれとはまったく別の遺伝子である。 本研究課題は生殖母体形成の分子機構の解明であるが、ノックアウト原虫の表現型を解析した結果、予想もしなかった表現型の発見につながった。
|