研究概要 |
塩酸イリノテカン(イリノテカン)による薬物療法において、グルクロン酸抱合酵素(UGT1A1)の遺伝子多型の診断を臨床応用する研究を行った。様々な臨床状況における50症例のゲノム解析を行った。なかでも主要な成果は、大腸癌に対して標準治療になりつつある5-FUとイリノテカン併用療法(FOLFIRIレジメ)の日本人に対する第一相試験を行い、その過程でUGT1A1遺伝子多型と薬物動態および有害反応との関連を前向きに検討した研究である。UGT1A1活性の低下を来たす遺伝子多型をもつ症例では、予想通り重篤な有害反応が認められ、その影響は薬物動態解析によっても確認された。特に、活性低下を来たす2種類の遺伝子多型を同時にもつ症例では強い有害反応が起こることが、今回の研究によって薬物動態の上からも確認された。薬物代謝酵素の遺伝子多型の診断が第一相試験における有害反応を解析する上で有用であったという研究成果は臨床上極めて重要であり、近く学会発表と論文により報告する。一方、遺伝子多型の診断が患者QOLに及ぼす影響を調べるために30症例を対象にQOL調査を行ったが、方法論上の課題もあり明確な結論には至らなかった。 研究を通して明らかになった第一の問題点は、薬物代謝酵素の活性低下を来たす遺伝子多型をもつと診断した場合の治療方針の意思決定についてである。つまり、たとえ治療前に遺伝子多型の診断を行っても、具体的に薬物用量をどの程度減量すべきなのか、治療薬そのものを変更すべきなのかという明確な指針がない。その解答に必要なデータを得ることは、臨床研究のデザインを含めて今後の重要な課題である。第二にインフラの整備である。個人情報に配慮した病棟および研究室でのサンプル管理,治療開始を遅らせないための迅速な遺伝子多型の判定法などが、オーダーメード医療を臨床応用するためには重要である。
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