研究概要 |
卵巣癌などの早期発見が難しい癌は悪性化しやすく,予防や早期診断に有効な指標も確立していない。我々は近年増加している卵巣癌において,良性腫瘍と比べて悪性卵巣癌で発現量が増加または減少する遺伝子を検出し,卵巣癌特異的にTGF-B1(Transforming Growth Factor-β1)と,その結合蛋白LTBP-1L(Latent TGF-β Binding Protein-1L)が過剰に発現していることを見い出してきた。そこで本課題ではLTBP-1Lの過剰発現を引き起こすメカニズムの解析と,卵巣癌の悪性度との相関についての解析を行った。 昨年度までに,癌で過剰発現するLTBP-1Lの活性化機構には転写レベルでの制御が最も重要であり,LTBP-1Lゲノムプロモーター領域に見い出した2ケ所の遺伝子多型(SNPs)が発現上昇に深く関与することを明らかにした。これは,この領域に結合する転写因子との結合力が高まるためであり,実際に活性が強い遺伝子型プロモーターには転写因子が多く結合していることをつきとめた。 本年度は多くの卵巣癌臨床症例において遺伝子型を調べ,遺伝子型ごとのLTBP-1L蛋白発現量を比較すると共に臨床データとの関与を解析した。その結果,転写活性が高い遺伝子型症例では蛋白の発現量も高く,さらに興味深いことに他の遺伝子型症例に比べて生存率が有意に低いことが明らかになった(T Higashi et al. J Mol.Diagn. in press)。一方,癌症例と健常者で比較すると遺伝子頻度に有意な差がなかったため,この多型は卵巣癌のかかりやすさには影響せず,多型によるLTBP-1L蛋白の過剰発現が,癌の進行に関与していると考えられた。 今後,悪性化のリスクファクターとしてのLTBP-1L蛋白の寄与を明らかにすることにより,LTBP-1Lを標的とした新たな診断や治療法の可能性について検討していく必要がある。
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