研究概要 |
本研究の目的は,首都移転,周回道路の整備など急速な社会資本整備が進行するパラオ共和国を対象に,社会資本整備にともなう自然環境の改変と生活・健康への影響について解明することである.具体的には,過去の衛星データ,インフラ整備及び人口のデータ,感染症モニタリングデータなどを地理情報システム(GIS)に統合することによって,相互の関連性についての分析を行い,社会資本整備によって,自然環境のみならず,人々の居住パタンあるいは感染症の発生/伝播のパタンがどのように変化するのかを包括的に分析している。本年度は,行政区の境界線,地名,道路,建物,人口動態,2000-2004年にかけてのデング熱アウトブレイク記録を統合した地理情報システムに統合と,複数の時期におけるリモートセンシング衛星データを対象にした分析をおこなった。分析そのものは継続中であるが,今年度は特に以下の結果を得た。(1)家屋周辺の総合的な環境整備スコア,特に排水溝の状況がデング熱アウトブレークの世帯レベルのリスク要因となっていた。(2)パラオ共和国で販売されている"ready-to-eat"食品のうち、半数が一般細菌汚染レベル"unsatisfactory"と分類され、4%が大腸菌汚染レベルで"unsatisfactory"と分類された。(3)2000-2001年のデング熱アウトブレイクは,まず首都コロールで発生し,クリスマス休暇と同じタイミングでその他の地域へ伝播した可能性が示唆された。パラオ共和国における社会資本の整備は,現在も継続中であり,新しい首都及び周回道路の利用が本格化し,大規模な人の移動がおこるにつれて,感染症を中心とする健康事象に及ぼす影響も拡大していくことが予想される。
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