研究概要 |
シンナー濫用者は、うつ状態様を呈する一方で、抑制を欠如し興奮状態になるといわれている。近年、ストレスからうつ状態を引き起こし、脳由来神経栄養因子(BDNF)が減少するというが報告があり、また、ストレスによるコルチコステロンの増加が、神経栄養因子BDNFの減少を引き起こし、神経細胞障害を来たすとの報告もある。今回の研究では、うつ状態様の症状の発生機序を明らかにする目的で、トルエン(1,500ppm)を1日4時間、7日間吸入させたウイスター系雄ラットの脳を試料として、BDNF、グルココルチコイドレセプター(GR)の局在およびBDNFタンパク濃度の変化を検討した。免疫組織化学的に、大脳皮質・海馬・小脳・視床・視床下部をBDNFとGRで染色したところ、BDNFは、海馬・小脳・視床では、処置群は対照群より染色性が減弱しており、視床下部の室傍核(PVN)で処置群の染色性の亢進が認められた。一方、GRは大脳皮質・海馬・小脳・視床では,処置群の染色性の亢進が認められた。また、ELISA法を用いて大脳皮質・海馬・小脳・間脳(視床、視床下部)についてBDNFのタンパク量の定量を行ったところ、間脳では、有意に減少していた。小脳・海馬では,有意差は認められなかったものの減少していた。ストレスにより視床下部のBDNF量は増加するとの報告があり、免疫染色でPVNのBDNFの染色性が亢進したことは、トルエン吸入のストレスによる影響が考えられる。これまで、トルエン吸入によりラットの血中コルチコステロン・ACTHが増加し、HPAaxisが活性化されることを明らかにしてきた。以上の結果より、トルエン吸入がストレスとなりHPAaxisを活性化し、海馬・小脳・視床におけるGRを増加し、BDNFを減少させているものと考えられた。その結果、神経細胞に何らかの障害を生じ、この変化がうつ状態に関連する可能性が推定された。
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