研究概要 |
本研究ではアトピー性皮膚炎モデルマウス(NC/Nga)に精神的ストレスを負荷することによりアトピー性皮膚炎様症状が惹起されるか、そしてその作用機序としてcorticotrophin-releasing factor(CRF)が関与しているか否か検討した。NC/Ngaマウスはダニ、埃の存在する環境下(conventional)では皮膚炎を自然発症するが、specific pathogen free(SPF)環境下では皮膚炎を発症しないという特徴を有することが知られている。今回、NC/Ngaマウスに対しSPF環境下でwater avoidance stress(1回60分、週5回)による精神的ストレスを加え、ストレス負荷後はマウスをケージに戻すという操作を4週間継続して行い、経時的に皮膚症状を観察するとともに血清ステロイド値、血清IgE値、血清およびリンパ節単核球由来のIL-4、IL-5、IFN-γ産生能を検討した。また皮膚炎発症の作用機序としてCRFの関与を検討した。 【結果】NC/Ngaマウスでは、SPF環境下においても精神的ストレス負荷を加えることによりアトピー性皮膚炎様症状が惹起された。皮膚炎を発症したマウスでは血清IgE値上昇・皮膚真皮の肥満細胞の増加が見られた。血清ステロイド値は非ストレス群と比較してストレス負荷群で明らかに上昇していた。同様にSPF環境下においてBALB/cマウスに精神的ストレスを加えたが皮膚炎症状は惹起されなかった。NC/Ngaマウスにおいて、精神的ストレスを負荷しない群では皮膚炎症状は惹起されず、血清IgE値上昇もみられなかった。また血清中のIL-4,IL-5,IFN-γは皮膚炎発症マウスにおいても検出できなかったが、リンパ節由来単核球をconcanavalin Aで刺激したところ、皮膚炎発症マウスにおいてのみIL-4,IL-5の産生が認められた。一方、IFN-γ産生はいずれの群においても認められた。CRFの腹腔内投与では皮膚炎を誘発できず、CRFは皮膚炎発症には関与していないと考えられた。 この結果はアトピー性皮膚炎の発症に関して環境要因だけでなく、精神的なストレスも重要な役割を担っていることを示唆している。同時に精神的ストレスによる掻破行動誘発の背景には遺伝的素因も関与していると推定された。
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