研究概要 |
脳における神経系の形態形成や機能発現の調節に糖鎖修飾の関与が注目されつつある。本研究では、統合失調症の病態仮説のひとつである神経発達障害仮説を、神経細胞接着分子(NCAM1)の翻訳後修飾に関わる糖転移酵素の機能異常という着眼点からSTX, PST, GlcAT-P, HNK-1ST遺伝子の変異・多型解析を実施した。 1.STX遺伝子のプロモーター領域に位置する-1126T>C(P=0.014)と-851T>C(ρ=0.007)が統合失調症と有意に関連することを明らかにした。さらに、リスクハプロタイプは、リスクリデューストハプロタイプと比較して有意に高い転写活性を示した(P=0.021)。ポリシアル酸糖転移酵素のSTX遺伝子プロモーターにおける機能性多型が統合失調症と有意に関連したことは、NCAM1本体の機能のみならず翻訳後修飾も統合失調症の病態に関与することを示唆している。 2.GlcAT-P遺伝子に稀な変異[+27G>T(Ala>Ala),678G>C(Arg>Arg),IVS4+57C>A,1652_1653insG]を同定した。患者・対照研究の結果、非翻訳領域に位置する1812C>Tが対立遺伝子頻度において統合失調症と有意な関連を認めたが(P=0.04)、観察されたハプロタイプ頻度には患者群と健常対照群で有意な差は認めなかった。以上の結果、GlcAT-P遺伝子に統合失調症と関連する多型は存在するものの、GlcAT-P遺伝子全体としての病態への関与は小さいと考えられた。 3.HNK-1ST遺伝子の-91A>C及びIVS1+139T>C多型が、遺伝子型頻度において統合朱調症と有意に関連することを明らかにした(P=0.01)。また、連鎖不平衡ブロックに存在するHNK-1ST遺伝子多型を用いたハプロタイプ解析を行った結果、統合失調症群と健常対照群に見られるハプロタイプ頻度に有意な差があることを明らかにした(P=0.02)。以上の結果、ポリシアル酸糖鎖だけでなく、NHK-1ST糖鎖が統合失調症の危険因子のひとつとして働いている可能性が示唆された。
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