研究概要 |
私は、希薄なサンプルを泳動し分解能を上げることにより、放射線によって誘導されるJNKタンパク質をWestern解析により見出した。この放射線によって誘導されるJNKタンパク質(分子量50kDa)は、恒常的に発現している既知のJNKタンパク質(46kDa,54kDa)とは異なる分子量を示すこと、JNKリン酸化特異的抗体によって認識されない非リン酸化型フォームであること、JNKタンパク質の全長を認識するポリクローナル抗体では検出されるが、C端を認識するモノクローナル抗体では検出されないことから、これまで報告のない新しいJNKフォームであることが示唆された。またこの誘導型JNKは、放射線誘発細胞死を起こした細胞で見られることから、細胞死の誘導との関連が示唆された。そこで、アポトーシスにおいて実効的な役割を担うシステインプロテアーゼの1つであるカスパーゼの阻害剤を用いて、p52発現誘導における影響を調べた。その結果、caspase-1,-4の阻害剤であるYVAD-CHOでは、X線照射後のp52発現誘導を抑制できなかったが、caspase-3,7の阻害剤であるDEVD-CHOでは、p52の発現とp54の発現量減少が完全に抑制された。さらにin vitroにおいて、リコンビナンドp54JNK1,P54JNK2はactive caspase-3によって切断されることが判明した。以上の結果からX線や温熱によってアポトーシスを起こす細胞にみられるp52JNKの誘導はp54JNKがカスパーゼによって切断された切断産物である。カスパーゼは哺乳類細胞では、14種類以上存在することがわかっている。先の結果からDEVD-CHOに感受性のあるカスパーゼcaspase-3,-7は基質タンパク質内のDXXDという配列を認識し、基質を切断する。しかしながらp54JNKのアミノ酸配列内にDXXD配列は存在しないことがわかったため、C端側に存在するatypicalな配列であるSDTDという配列に着目した。この配列のP1ポディションのDをAに置換した変異体を構築し、活性型caspase-3と反応させたところ、切断は抑制された。さらに切断型JNK(p52)の細胞内局在と機能をかいせきするため、p52発現ベクターを構築し、ヒト胎児腎細胞(293T)に導入した。その結果、P52の細胞内局在は、既知のJNKと変わらないこと、P52発現による放射線感受性の変化は無いことが判明した。In Vitroの実験でもp52のc-Junリン酸化能に変化は認められなかった。
|