研究概要 |
今回我々は血管新生阻害作用により抗腫瘍効果が報告されている可溶性VEGF受容体(FLK-1)の発現ベクターをHBs抗原粒子に封入しその抗腫瘍効果を検討した。このVEGF受容体cDNAを導入することにより目的とするタンパクは個体で産生されるため、充分臨床に応用できると考えた。またFLK-1の欠点としてそれ自身は組織特異性がないため正常細胞での血管新生も抑制されることが考えられる。HBs抗原粒子の肝特異的という性質を利用することによりこの弱点は解決されFLK-1の肝細胞癌に対する抗腫瘍効果が期待できると考えられた。 肝細胞癌株(HepG2,NUE)、controlとして大腸癌株(WiDr,HT29)を用いてFLK-1ベクターの発現をin vitro, in vivoにおいて検討したが確認されるには至らず、またHBs抗原粒子の封入過程においてもGFP発現controlベクター導入は困難を極めた。この二点を解決すべくFLK-1に変え新たにヒトFLT-1発現ベクターを用い、導入効率の向上が期待されるM8型-HBs抗原粒子(大阪大学産業科学研究所 黒田俊一助教授)の開発を待つとともにHVJ Envelope Vector (GenomONE^<【○!R】>)を用いた実験を行った。 結果: in vitro実験ではNUE,WiDr培養細胞にHVJ-FLTを投与しFLT-ELISAにおいて有意なFLT-1発現を確認。 in vivo実験ではHVJ-FLT投与NUE移植マウスではcontrol群と比べ最大79.2%、WiDr移植マウスにおいても57.0%の腫瘍抑制効果が確認された(観察期間2週間)。各組織中のFLT発現を検討した結果、肝組織で有意な上昇を認めたが期待された腫瘍中のFLT濃度は低値を示した。現在HVJ-FLT体内動態を探るべく、緑色蛍光物質calcein封入HVJ投与を行っている。
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