研究概要 |
【目的】われわれは,腹腔鏡下手術での腸管壁への色素の注入法として,生食注入併用色素法を考案した.さらに赤外光観察システム(オリンパス社製)を用いて,大腸癌のセンチネルリンパ節(SN)マッピングの精度と問題点を検討した.【方法】対象は腹膜翻転部より口側の深達度sm-seの大腸癌49例.色素はICGを使用し注入5分後から約10分間かけて腹腔鏡通常光下と赤外光下に観察し,SNを判定した.術前内視鏡下においたマーキングクリップにより術中透視下に病変を確認した.1-3mlの生理食塩水を25G針で経皮的に穿刺し漿膜側から壁内に注入されていることを,注入抵抗,膨隆から確認した後,ICG溶解液を注入した.【結果】赤外光観察ではSN同定率は100%で,sensitivityは53.3%であった.これを深達度sm-mpの30症例に限ってみた場合のsensitivityは83.3%であり,偽陰性のリンパ節を1個認めた.47症例(96%)では,赤外光観察でのみ同定できたSNが存在した.通常光観察における平均SN個数は0.7個であったのに対し,赤外光観察では3.6個であった.SNマッピングの結果で術式が変更になったのはsm癌の1例(2.0%)で,D1+αリンパ節郭清を予定していたが252,253番リンパ節がSNと同定されたため,D2リンパ節郭清および253番リンパ節のサンプリングを行った.この症例では,SNと同定した252番リンパ節が病理組織学検査で転移陽性と診断され,術式の変更は有用であった.腫瘍自体にICGを誤注する症例はなかった.【考察】腹腔鏡下大腸手術において,生食注入併用色素法を用いた腹腔鏡赤外光観察によるSN判定は簡便であった.sm-mp癌症例においても偽陰性例が認めたことから,縮小手術への臨床応用は現状では難しいと考える.しかし,触診などの情報が欠如する腹腔鏡手術において,SNマッピングが郭清範囲を決めるための一助となりえる可能性があると考える.今後の臨床応用には,false negativeの低減とSNの微小転移診断をおこなう必要である.そのため,現在,PCRによる微小転移診断の準備を開始し,ワークショップ等に参加している.
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