研究概要 |
【目的】膵管内乳頭腫瘍(IPMT)は同一腫瘍内に多彩な組織像を呈することから、段階的な発生、緩徐な発育を示す腫瘍と考えられている。今回我々は組織学的形態と遺伝子学的背景を比較することにより本腫瘍の発癌に関する検討を行ったので報告する。【方法】IPMT23症例(悪性9例、境界5例、良性9例)を対象とした。各腫瘍内にみられる病変をgrade1(腺腫、過形成),grade2(異型病変),grade3(非浸潤癌),grade4(浸潤癌)の4段階に形態分類したのちにmicrodisseictionにより計210病変を採取した。採取した病変におけるK-ras point mutationおよび9p21(p16),17p13(p53)におけるLOHを解析し、形態分類と遺伝子学的背景を対比・検討した。【結果】K-ras point mutationは15例(65.2%)に認められた。変異パターンはいずれの症例も均質であり複数の変異パターンは認められなかった。変異陽性症例における各病変の陽性率はgrade1:72.1%,grade2:83.3%,grade3:100%,grade4:87.5%であった。9p21 LOHは8例(34.7%)に認められた。9p21 LOH陽性症例ではgrade1:80%,grade2:83.3%,grade3:88.2%,grade4:77.8%の陽性率であった。17p13 LOHは6例(26.1%)に認められ、いずれも浸潤癌症例であった。17p13 LOH陽性症例ではgrade1:0%,grade2:100%,grade3:100%,grade4:100%の陽性率であった。【結語】組織学的低悪性度病変にも、同一腫瘍の癌部と同様の遺伝子学的背景が認められたことは、本腫瘍が段階的な発生を示す根拠と考えられた。
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