研究概要 |
吸入麻酔薬イソフルランや静脈内麻酔薬バルビツール誘導体は脳保護効果を有するとされているが,それが果たして前脳虚血に対して有効であるのか,あるいは局所脳虚血に対して有効であるのかいまだに結論が出ていない。また,これらの麻酔薬を虚血の前後どの時点で作用させればよいかについても議論の分かれるところである。われわれはイソフルランやペントバルビタールの前脳虚血に対する脳保護効果について核磁気共鳴法(^1H-NMR)を用いて検討した。 ラットをI群(n=6)とP群(n=6)の2群に分けた。それぞれの麻酔薬で全身麻酔した後,15分間の両側総頸動脈閉塞および脱血により動脈圧を40mmHgに維持し前脳虚血モデルを作成した。NMRにより脳全体のNMRスペクトルを観察して乳酸(Lac)とN-アセチルアスパラギン酸(NAA)の分布を評価した。 前脳虚血により両群ともLacスペクトルピークの著明な増加とNAAスペクトルピークの減少を認めた。また,これら物質の脳内における分布をマッピングした画像では前脳虚血時に脳全体にび漫性にLacが分布していることが明らかとなった。また,両群とも前脳虚血から回復させると速やかにLacおよびNAAピークは最初の状態に向かって回復していった。両群におけるLacおよびNAAの動態に有意差は認めなかった。 前脳虚血に対するイソフルランとペントバルビタールの効果には有意差がないことが本研究より示唆された。本研究では^1H-NMRによりLacおよびNAA動態を見たものであるが,今後は^<31>P-NMRを用いてATP代謝の観点から脳エネルギー代謝を評価する必要性があると考えられる。
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