研究概要 |
腺様嚢胞癌の臨床的特徴である神経周囲浸潤は耳下腺癌において顔面神経の温存を左右する重要な因子であり、神経合併切除を余儀無くされた患者において整容面で大きな問題を生じることになる。神経周囲浸潤を規定すう因子が特定できれば、その阻害剤の開発などの将来の新しい治療につながる可能性がある。一方膜貫通型MMP(MT-MMPs)は癌細胞膜周囲のマトリックス分解に関与することから神経周囲浸潤等の癌細胞周囲の微少環境のリモデリングに関与することが予想される。唾液腺癌において粘表皮癌に比べ腺様嚢胞癌ではTIMP-2の過剰産生によりMT1-MMPによるMMP-2の活性化が抑制されていた(平成13-l4年度科研費 J Pathol 202: 403-411,2004)。平成l6年度から継続して唾液腺癌の組織ホモジネートからRNAを抽出し、RT-PCRによりMT-MMPs(MT1,2,3,4,5-MMP)について検討した。これらのうち腺様嚢胞癌で高発現であったのはMT3-MMPだけでその他のMT-MMPsに差をみとめなかった。唾液腺癌組織ホモジネートに対して抗MT3-MMP抗体によるイムノブロッテイングを行なったところ腺様嚢胞癌においてはコントロールの非癌部唾液腺や粘表皮癌に比べ高発現であった。抗MT3-MMP抗体による免疫組織化学法を行なったところ、MT3-MMPの局在は腺様嚢胞癌細胞に認めるものの神経周囲に特異的に観察されるものではなく腫瘍周辺部でび漫性に観察された。本研究では脳神経組織に高発現すると報告されているMT3-MMPがRNAレベルでも蛋白レベルでも腺様嚢胞癌に高発現していたものの、神経周囲浸潤に対する機能的重要性については示されなかった。今後症例数を増やして、腺様嚢胞癌におけるMT3-MMPの機能を他の臨床病理学的因子と検討していく予定である。
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