研究概要 |
唾液腺腺房細胞の成熟には形態学的分化と機能的分化(唾液分泌能)の両方が必要である。本研究ではこの機能的分化のメカニズムを探るために出生前後(胎生18日目と生後1日目)のICR系マウス顎下腺を用いて、昨年度にはマイクロアレイを行って転写因子の変動を検討した。このとき56個の転写因子の発現レベルが出生後に2倍以上上昇したが(RT-PCRにて確認済み)、これは転写レベルでの変動の結果であり、実際に機能しているか否かは疑問であった。そこで今年度はまず機能している転写因子を絞り込むために、DNA結合能を検討した。前回と同様に胎生18日目と生後1日目のマウス顎下腺から核抽出液を分離・精製し、主要な345の転写因子について網羅的に解析を行った。 出生前後でともにDNA結合能を有している転写因子は19個であり、そのうち7個は同レベル(CEA, Oct-1など)だが11個は生後活性が上昇し(TR, VDR, PAX4/6など)1個は逆に減少した。また出生後、活性が大きく上昇したものは14個(Pax5, Stat4, ISREなど)であった。コントロールとしてはエストロゲンレセプターの上昇が検出された。唾液腺でのこれらの転写因子の発現およびその調節機構は現在のところ報告がない。現在in silico解析によりその発現調節に関わる知見を整理しているところである。さらに唾液腺細胞での各転写因子の発現調節機構をより詳細に検討するために、正常な顎下腺細胞株の樹立を試みており現在進行中である。同時に、その標的遺伝子を同定するためにクロマチン免疫沈降法を応用することも検討している。本研究は唾液分泌機能が開始されるときの細胞内分子メカニズムを解明する上で新たな知見を提供できるものであり、さらには口腔乾燥症の新たな治療法の開発に役立つと考えている。
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