研究概要 |
本年度は、ラット切歯を形成する上皮細胞群の、幹細胞を含むことが報告されているapical budから摘出した細胞を、単培養および歯乳頭細胞との供培養を行い、未分化エナメル上皮細胞のエナメル芽細胞への分化に歯の間葉細胞がどのような役割を果たすのかを検索し、報告した(Archs Oral Biol. in press : accepted in 2004)。この研究では、apical budの細胞群は単培養では増加が認められず、またエナメル芽細胞の分化マーカーとして用いたameloblastinの発現も、培養期間が10日に達しても認められなかった。一方、歯乳頭細胞との供培養では、細胞数は減少し続けるものの、培養2日目には上皮細胞の半数が内エナメル上皮細胞の分化マーカーであるp75NGFRを発現し始め、培養4日目には上皮細胞中にameloblastinの発現を認め、さらに培養10日目ではほとんどすべての上皮細胞がameloblastinを発現した。他方、内エナメル上皮細胞群を単培養すると細胞は増殖し続け、また培養10日目までにその一部がameloblastinを発現した。歯乳頭細胞との供培養では、細胞数は2日目までは増加するものの、その後は減少した。しかしながらameloblastinを分泌する上皮細胞は増加し、ほとんどすべての上皮細胞がameloblastinを発現するようになった。以上より(1)歯乳頭細胞は未分化エナメル上皮細胞を、内エナメル上皮細胞への分化経路に誘導すること、(2)また、歯乳頭細胞は未分化エナメル上皮細胞の増殖にも必要とされること、(3)内エナメル上皮細胞はすでにそのエナメル芽細胞への分化運命が決定なされており、transit amplifying cellとしての性質を持つこと、(4)歯乳頭細胞は内エナメル上皮細胞の増殖サイクルを止め、エナメル芽細胞への分化を加速させることが示唆された。さらに、昨年度確立し、報告したラット切歯由来組織間細胞様未分化エナメル上皮細胞株HAT-7(J Dent Res. 83:129-133,2004)とラット切歯由来歯髄細胞株RPC-C2A(Kasugai S. et al. Archs Oral Biol. 33,887-891,1988)との供培養を行い、cell lineの細胞でも同様の結果が認められた(投稿準備中)。これらから、実際にin vitroでのエナメル芽細胞誘導の可能性が示され、歯髄・歯根膜再生療法を可能とするエナメル基質タンパクの生成・回収実現への基礎的な知見を得ることができた。
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