研究概要 |
1.全身麻酔薬に対する嘔気・嘔吐の動物モデルの確立 嘔吐行動を発現するためのハロセン吸入麻酔後の嘔気・嘔吐モデルを構築した。各種吸入麻酔薬の麻酔覚醒後に行動観察をし,嘔吐行動の回数を評価した。その結果,空嘔吐(retching)の回数はハロタンでは吸入麻酔薬濃度(1〜4%)と嘔吐行動回数に正の相関関係を認めたが,著明な嘔吐(vomiting)は観察されなかった。この際,吸入麻酔薬と酸素をチャンバーに潅流し全身麻酔導入後,人工呼吸下に気管挿管し,補助呼吸下に吸入麻酔薬を与えて維持し,チャンバー内の酸素,二酸化炭素,麻酔ガス濃度をガスモニターで測定した。揮発性吸入麻酔薬ハロタンによる全身麻酔後嘔吐モデルを構築することが出来た。 2.麻酔後嘔吐の発現機序における催吐物質5-HT濃度の検索 上記方法にて完成した動物モデルの嘔吐行動観察後(検体)における,小腸腸管粘膜のEC細胞およびCTZ,末梢血,そして尿中の5-HT濃度を液体高速クロマトグラフィーで測定した結果,吸入麻酔薬濃度や時間との関係はなかった。麻酔後嘔吐は麻酔薬以外の要因の影響を受けると推察できる。 3.ヒトにおける5-HT濃度の検索 歯科治療に全身麻酔を適応した患者の麻酔前から麻酔後まで,唾液・血液・尿のサンプルを経時的に採取し凍結保存した6検体に対して高速液体クロマトグラフィーで5-HT濃度を測定した結果,術後に嘔吐した症例はなく,5-HT濃度も麻酔前後で差異は見出せなかった。今後も,対象を歯科治療時の異常絞拒反射に限定して追加検討を行う予定である。 総括 揮発性吸入麻酔薬ハロタンによる全身麻酔後嘔吐動物モデルを構築することが出来た。このモデルでは吸入全身麻酔薬による5-HT系の影響は確認されなかった。今後,臨床的研究として,ヒトにおける5-HT濃度の基礎レベルとその日内変動の究明を推進し,各種麻酔薬の影響を検討したい。
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