研究概要 |
臍帯血は,臨床検査用のものを除いた約20mlを採取し,比重液(Histopaque-1077)を用いて,血球成分,血清成分および単核細胞層に分離した.その中でも,未分化間葉系細胞として単核細胞のみを抽出し,1 x 10^6 cells/mlで播種し,a-MEM(20%FBS含)中で培養した. 1.細胞の増殖について 昨年度の検討において、臍帯血由来間葉系幹細胞の増殖能に問題があったために、本年度は増殖を誘導するような培養液であるIMDM (Iscove's modified Dulbecco's medlum)を用い、さらに10ng/mlのbFGFも添加して培養を行ったが増殖能力に変化は認められなかった。このことから,臍帯血でも抹梢血になるとそこに含まれる間葉系幹細胞の増殖能は極めて低いことが示唆された. 2.未分化間葉系幹細胞マーカーの検討 ヒト臍帯血より単離した単核細胞をa-MEM(20%FBS含有)中で培養し,70〜80%コンフルエント時に,0.1%trypsin/EDTAにて細胞を剥離し,RNA Extraction Kitにてtotal RNAを抽出し,RT後,未分化間葉系幹細胞に特異的なCD抗原(CD34^-,CD29^+,CD44^+,CD105^+)の発現を検討するため,ヒトCD34(425bp),ヒトCD29(314bp),ヒトCD44(674bp),ヒトCD105(377bp)およびヒトG3PDH(799bp)のプライマーを用い,94℃:5min,(94℃:30sec,60℃:1min,72℃:1min)、4℃:7min,4℃:∞の条件で,PCRを行った.その結果,造血系幹細胞に特異的なCD34抗原の発現はほとんど認められず,間葉系幹紳胞に特異的なCD29,CD44,CD105抗原がいずれも発現することが明らかとなり,採取した幹細胞が間葉系の性質を持つことが強く示唆された.一方,FACS分析においても同様の結果が得られた. 3.細胞外基質コートが臍帯血由来間葉系幹細胞の接着,増殖に及ぼす影響. 培養ウサギ滑膜細胞がコンフルエントになった後に,0.5%Triton X-100にて30分間インキュベートし,細胞のみを除去した後,臍帯血由来間葉系幹細胞を播種したところ,接着する細胞が多く,増殖能も上昇する可能性が示唆された. 4.軟骨分化能の検討 増殖が認められたサンプルについてペレットカルチャーを行い,分化誘導因子(TGF-β,ITSなど)にて分化誘導を試みたが,軟骨様のペレットは形成されず,分化能を確認するには至らなかった. 以上の結果より,臍帯血の抹梢血には多分化能を有する間葉系幹細胞が含まれることが明らかになったが,細胞数が少ないとともに,その増殖能力は極めて低く,増殖しても分化することは困難であることが明らかになった.今後は,さらに増殖能,分化能を積極的にコントロールできる未知の因子の同定が望まれる.一方で,他の報告でも散見されるように,同じ臍帯血でももっと上流の血液を採敢することにより,増殖能の高い細胞を採取できる可能性が示唆された.
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