研究概要 |
レーザーによる齲蝕治療は,従来のタービンなどに変わる治療器具として研究されている. Er:YAGレーザーを用いてエナメル質を蒸散した場合,形成されたmicrocrackは表層の網目状構造と下層のひも状構造に分けられる.これらの構造はコンポジットレジンと歯質との接着強さに影響を与えると考えられる.そこで本研究では,蒸散歯質の微細構造を詳細に観察し,その機能について検討した. レーザー発振装置はEr:YAGレーザー(Erwin,モリタ社製),実験歯は新鮮抜去ヒト大臼歯(4℃冷蔵保存)を用いた.照射出力はコンタクトチップ先端出力50,150mJ/pulse,繰り返し速度10pps,供給水量25ml/minの注水下とした.照射方法は単照射(一定の出力のみ)と重複照射(150mJ照射後,50mJを追加照射)を用いた.実験歯にレーザーを照射し,ボンディング材を塗布後,コンポジットレジンを填塞した.得られた試料を用いて引っ張り接着試験を行い,さらに破断した試料をSEMにて観察した. その結果,破断面はボンディング材とエナメル質の交じり合った混合破壊を呈した.破断部は照射面下の網目状構造を呈する部位で多くみられ,深部のひも状構造部での破壊は少なかった. 照射条件の違いでは,50mJ単照射では比較的なだらかな照射面であったのに対し,150mJ単照射では粗造な面を呈した.150mJ+50mJ重複照射では,150mJと比較しなだらかな照射面であった.引っ張り接着試験より,重複照射は単照射より高い接着強さを示した. 以上より,Er:YAGレーザー照射後のエナメル質にコンポジットレジンを充填する際,接着を阻害するのは照射面下の網目状構造と考えられ,重複照射を行うことはこの構造を除去あるいは減少させて,接着強さを向上させる方法のひとつとして有効と考えられる.
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