研究概要 |
平成15年度において,ヒト単球系細胞株であるTHP-1細胞を用いて歯周病原性細菌であるA. actinomycetemcomitansを感染させたところ,アポトーシスにより細胞死することを明らかにした。このアポトーシス発現にはp38 MAPキナーゼが関与する可能性が示した。平成16年度では,A. actinomycetemcomitans感染細胞のp38 MAPキナーゼ活性について詳細な検討を行った。A. actinomycetemcomitansの感染によりTHP-1細胞内のp38 MAPキナーゼ活性は非感染細胞に比べ著しく上昇した。この活性の上昇は,感染後1時間においてピークを認めた後,ゆるやかに減少した。一方,ERKやJNKといった他のMAPキナーゼの活性の変化はp38 MAPキナーゼに比べて少ないものであった。次に,p38 MAPキナーゼ活性阻害剤であるSB203580を感染実験系に添加したところ,A. actinomycetemcomitans感染細胞のアポトーシスは有意に抑制された。さらに,感染細胞から産生されるTNF-αは,SB203580の添加により抑制された。また,抗TNF-α抗体を添加して感染実験を行ったところ,細胞死発現とp38 MAPキナーゼ活性が抑制された。一方,非感染THP-1細胞に感染細胞から産生されるTNF-αと同程度の濃度のTNF-αを添加して培養したところ,その細胞死の発現はわずかであった。このことから,TNF-αは直接的に感染細胞の細胞死に影響するのではなく,p38 MAPキナーゼの活性化に影響することでアポトーシス発現に影響していると考えられた。 以上の結果をまとめると,A. actinomycetemcomitans感染ヒト単球細胞に発現するアポトーシスにp38 MAPキナーゼによる細胞シグナル伝達系が関与すると考えられた。またこのp38MAPキナーゼの活性化には感染細胞から産生されるTNF-αが影響している可能性が示唆された。
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