研究概要 |
目的: 高齢者を対象としたコホート研究により,咀嚼機能が低い者は日常生活動作能力が低下しやすいという仮説を検証することが本研究の目的である。 対象および方法: 1998年のベースライン調査を受けた70歳高齢者599名を対象として,2004年に6年後の追跡調査を実施した。追跡できた者は404名(追跡率67.4%)であった。調査項目は,咀嚼機能(山本式咀嚼能率判定表),日常生活動作能力(Functional Performance Score : FPS;7点満点),およびADLに関わる要因(体力,健康習慣,体調など)である。対象者には,本研究の目的,内容,必要性,ならびにプライバシーの保護等について,説明書に基づき十分な説明を行い,書面による同意を得た。 ベースライン時点ですでに日常生活動作能力が低いと判断された下位約25%(男性5点以下,女性3点以下)の者を除外した307名(男性169名,女性138名)を分析対象者とした。6年後,男性で5点以下,女性で3点以下に低下した者を動作能力低下者と定義した。まず,ベースライン時の各要因ごとに低下者の発生割合をクロス集計にて求め,さらに動作能力低下の有無を目的変数としたロジスティック回帰分析を行った。 結果および考察: ロジスティック回帰分析の結果,10%未満で有意性が示された要因は,咀嚼機能(p=0.031),BMI(p=0.072),定期的な運動(p=0.097),聴覚(p=0.004),開眼片足立ち時間.(p=0.061)であった。本研究では,高齢者の日常生活動作能力低下の有無とベースライン時の口腔健康状態との関連について,交絡要因を調整して分析を行った。その結果,咀嚼機能がBMIや定期的な運動などとともに有意な要因であることが示され,咀嚼能力が低い高齢者は日常生活動作能力の低下を招きやすいが示唆された。
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