研究概要 |
血管内皮細胞の培養上清より単離精製された強力な血管収縮ペプチドであるエンドセリン-1(ET-1)は、喘息や副鼻腔炎といった炎症性の疾患において、サイトカインやエンドトキシンといった炎症性前駆物質の発現を誘発し、局所的な慢性炎症の発現に関連していることが示唆されている。従って炎症性疾患の一つである歯周炎においても、ET-1が他の組織と同様に、歯周組織の炎症の発現にも何らかの作用を有している可能性を有しており、このことは以前、我々の研究によって報告(J.Periodontol.Res.,38,417-421,2003)している。 本研究に関しては現在までの所、下記の通りの結果が得られている。1)ET-1は炎症性歯周組織中の歯肉上皮細胞において強く発現している。2)培養口腔上皮細胞(KB cell)に対して、歯周病原性細菌P.gingivalisによる刺激を与えた場合、ET-1の発現量が増加する。3)歯周病患者から採取した歯周組織中のET-1の発現とインターロイキン1β(IL-1β)、IL-8の発現には正の相関関係が認められる。4)KB cellに対してET-1を添加すると、濃度依存的にIL-1βの発現濃度が増加する。5)KB cellに対してET-1を添加すると、濃度依存的にIL-8の発現濃度が増加する傾向が認められる。6)KB cellに対してIL-1βまたはIL-8を添加すると、濃度依存的にET-1の発現濃度が増加する。以上のことより、ET-1は歯周組織中における炎症性前駆物質の発現に関与し、それらの物質とinflammatory-loopを形成している可能性が示唆された。またET-1は歯周炎の病態に影響を与えるだけではなく、口腔癌の病態に対しても様々な生理作用を有している可能性を、口腔扁平上皮癌細胞のエンドセリンシステムの発現,ならびに癌細胞に対するET-1の増殖作用の存在を明らかにすることにより最近報告した。(Int.J.Cancer, 118,645-52,2006)
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