研究概要 |
本研究が目指すところは,統合失調症患者に対する一看護介入としての服薬心理教育(以下,心理教育)に関する実践的な看護理論を構築することである. 心理教育を運営する看護師は,「患者の思いを引き出す」,「わかりやすい言葉で言い換える」,「辛さをわかろうとする」,「患者の言葉を肯定的に言い換える」,「具体策を提案する」,「他のメンバーの経験を引き出す」,「患者自身に判断を任せる」などのコミュニケーション技術を駆使し,患者をエンパワーメントしていた. 一方,心理教育を受けた精神疾患患者による服薬の受け止めは,≪医療者への信頼≫対≪医療者への不信≫,≪薬に頼る≫対≪薬に頼りたくない≫,≪生活に服薬を組み込む≫対≪生活に服薬を組み込まない≫,≪孤独感から開放される≫対≪孤独な生活≫という対立するカテゴリーのほか,≪自分が病気だと思わない≫,≪自分は病気かもしれない≫,≪病気を隠して生きる≫という病気の受容過程を表すカテゴリー,そして≪退院後は上手に暮らす≫という患者が将来を見通しているカテゴリーが見出された.このように,心理教育を受けた患者の心理状態はアンビバレントであるといえるが,これを心理教育による患者への悪影響と捉えるのではなく,むしろ,服薬することによる自らにとっての利益を患者が主体的に考えようとしている結果と捉えることが妥当であろうと考えられた. 今後,患者の関心をさらに高め精神症状の自己管理を促進するためのプログラムへと発展させるには,医療者との良好な関係の構築,服薬に対する恐怖感の軽減,服薬することに対する価値の向上,病気の受容の促進,退院後の生活設計への興味の喚起を強化することを目指す内容へと修正する必要がある.また,精神科急性期治療病棟で心理教育を実施する場合は,プログラムのセッション回数を少なくしなければ,患者が退院するまでに全プログラムを終了することが難しい.したがって,先述した内容の修正とセッション回数を減少させることが今後の課題である.
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