研究概要 |
【目的】本研究は、精神科看護における急性状態の臨床判断と看護援助について検討することを目的としている。 【方法】本研究では、看護者が急性状態にある患者への具体的な援助場面に参加し、場面のやり取りを記述した後に看護者にその場面について、インタビューを行った。平成15、16年度にS市、およびE市の精神科病棟3カ所において調査した。インタビューの内容は1)患者の急性状態の判断基準、2)その場面で意図したこと、3)具体的な援助内容と評価、4)患者の状態と援助の関連、とした。インタビューを含め研究への参加は事前に看護部、看護者に研究の趣旨を説明し、同意を得た。また、援助場面の参加観察では、可能な限り患者にも説明し、同意を得るようにしたが、患者の拒否や看護者、および医師の判断(病状など)で了解が得られない場合にはその場面に参加しないこととした。 【結果】対象患者8名、観察場面16場面、インタビュー対象看護者10名であった。参加観察場面は、食事・服薬介助6場面、水分補給2場面、処置・状態観察5場面、患者の要求(喫煙など)3場面であった。患者の疾患は統合失調症6名、診断がついていない患者2名であった。インタビュー対象看護者は女性看護者6名、男性看護者4名、看護者としての平均経験年数は13.0年(1〜25年)、精神科病棟の平均勤務年数は9.0年(0.5〜25年)であった。看護者の臨床判断の基準は1.病勢・症状の程度、2.過去の病状との比較、3.相互作用から得られる手応え、4.日常生活行動の自立度、5.予測の困難性、6.判断の保留、の6つに分類された。急性状態にある患者への援助については、1.行動の促し、2,注意を向ける、3.行動の提示、4.試み、5.感情を引き出す、6.現実の提示、7.確かめ、8.他者(看護者・医師)の活用、9,基本的な生活援助、10.安全な環境作り、11.間を置く、12.危険行動の防止、13.援助の保留・先送りの13に分類された。また、看護者の経験の差では、経験が0.5年〜5年未満の看護者(5名)の実践場面では「行動の促し」「注意を向ける」「行動の提示」が中心であった。しかし、精神科経験が5年以上の看護者(5名)の実践場面では5年未満のそれに加えて、「試み」「援助の保留・先送り」「感情を引き出す」「間を置く」といった項目を示す傾向にあった。 【考察】急性状態の臨床判断は過去の体験をもとに実際の具体的援助を通して、その都度評価・修正される一連の思考・実践プロセスであると考えられた。そして、急性状態の看護援助は、患者の病状の程度や治療の影響、日常生活行動のセルフケア能力などのアセスメント、そして相互作用から得られる手応えを基盤とし、回復過程の見通しをつけながら行われていると推測された。
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