研究課題/領域番号 |
15F15316
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 外国 |
研究分野 |
光工学・光量子科学
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
板谷 治郎 東京大学, 物性研究所, 准教授 (50321724)
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研究分担者 |
GEISELER Jost Henning 東京大学, 物性研究所, 外国人特別研究員
GEISELER JOST 東京大学, 物性研究所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2015-11-09 – 2018-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2016年度)
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配分額 *注記 |
2,100千円 (直接経費: 2,100千円)
2016年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2015年度: 1,200千円 (直接経費: 1,200千円)
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キーワード | アト秒科学 / 高強度レーザー / 光電子散乱 |
研究実績の概要 |
強レーザー場中で原子がトンネルイオン化する際に、放出された電子は光電場で加速される。レーザー光が直線偏光の場合、イオン化の約1/4周期後に光電場が反転し、その結果、加速された電子は発生源である原子に衝突し、散乱する。この現象は「レーザー誘起電子散乱」と呼ばれ、散乱源の電子構造を測定する手法として期待されている。しかし、マルチサイクルのフェムト秒レーザーパルスを用いた場合、包絡線強度の異なる時刻での散乱が複数回発生し、その結果、衝突エネルギーの異なる散乱現象が多数重なり合ってしまうという問題があった。 本研究では、赤外域でキャリアエンベロープ位相(carrier envelope phase; CE位相)が制御された高強度極短レーザーパルス(中心波長1600 nm, パルス幅10 fs, 繰り返し1 kHz)を希ガス原子(Ar, Kr, Xe)に集光し、発生する光電子スペクトルを測定した。光電子スペクトルには「ハーフサイクルカットオフ」と呼ばれるCE位相に敏感なスペクトル構造が現れるため、一回のトンネルイオン化に対応する光電子散乱のみをエネルギー的に分離することが出来る。さらに、ハーフサイクルカットオフ構造の最大エネルギー部分では二つの電子軌道が縮退するため、光パルス中で完全に一回しか起こらない光電子散乱の信号を切り出すことが出来る。このことを利用して、CE位相を操作することによって電子の衝突エネルギーを制御する手法「CE位相マッピング法(carrier-envelope phase mapping)」を提案し、実証した。特にXe原子のレーザー誘起電子散乱において、微分散乱断面積を実験的に求めた。この結果は、現時点で最も厳密な散乱モデルで計算される微分散乱断面積と定量的によく一致したことから、本手法の妥当性が明確に示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
実験当初の目論見としては、サブ2サイクルの極短パルス赤外レーザーを用いることによって、レーザー誘起電子散乱から原子分子の弾性散乱断面積を求める手法を確立することだった。初期の試行実験においてその理論的解釈を検証していった結果、従来行われているレーザー誘起電子散乱における解釈の曖昧さが、本研究で実証した手法によって解決できることを見いだした。実験自体は、長時間の計測と安定なレーザーの運用が必要な困難な物だったが、早期に完了することができた。 その後、当初の計画には含まれていなかったが、国際的に著名な理論グループとの共同研究へと発展し、得られた実験結果と理論グループが行った計算結果の比較が可能となり、結果として定量的によい合致が得られた。これにより、新しい実験手法の提案とその妥当性を明確に示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、飛行時間分析法によって角度分解光電子スペクトルを測定したため、異なる方向へ散乱される光電子のスペクトルを測定するためにレーザーの偏光を逐次回転させる必要があった。そのため、運動量空間での二次元データの取得に長時間かかるという問題点が明らかになった。この問題を解決するために、Velocity Map Imaging法による高エネルギー電子の運動量イメージング装置を導入し、本実験をアト秒精度の時間分解実験へと展開することを計画している。 また、本研究を通して理論グループとの連携が可能となった。今後、レーザー誘起電子散乱の理論に関しては、散乱における多電子効果や分子系への拡張が期待される。本研究によって、これらの理論の進展へ実験からのフィードバックが可能となり、強レーザー場中でのアト秒電子過程に関する理論の更なる進展が期待出来る。
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