研究実績の概要 |
【研究目的】外国語としての英語(EFL)入門期のコミュニケーション活動における, 子どもの第二言語の発達過程を発話データに基づいて明らかにすることである。日本では英語学習入門期にゲームやインタビュー活動など暗記した表現を使ったコミュニケーション活動が動機づけに貢献しているが, 言語習得という観点からの観察データが不足しており, 文産出における統語の発達過程は明らかになっていない。 【研究方法】独自に考案した英語コミュニケーションタスクにより収集した小学4年生から6年生24名分の発話データ約4,000語を電子コーパス化し, 近年ESLで適用されている心理言語学的観点から第二言語の文法発達の普遍性を説く処理可能性理論(PT, Pienemann, 1998)を枠組みとして統語発達を横断分析した。 【研究成果】日本の小学生の統語発達は処理可能性理論の第1段階(words)から第4段階(copula-inversion)でありPTが予測する発達過程に一致した。さらにPTが扱う文構造の下位構造にも着目して分析した結果, 平叙文の発達において, 初期段階では語順転倒(SOV), 主語や動詞の省略, 連結動詞の欠落や過剰が目立つが, 発達段階が進むにつれ標準的語順(SVO)が安定した。しかし, ESLの小学生に見られる副詞前置(Adverb-fronting)への発達は見られなかった。否定文の分析では, PTの発達段階内で母語の語順の影響を受け, その後, 次第に模範例基盤学習(exemplar-based learning)によると思われる産出が見られるようになった。また, 疑問文の発達でも概ねPTに従うものの, 連結動詞のwh疑問文の出現が著しく早く, ここにも模範例基盤学習が観察できた。 【研究の意義】本研究により, 中学生を対象としたEguchi & Sugiura (2015, System)で確認できなかった日本語を母語とする初期EFL学習者へのPTの適用可能性と課題が明らかになった。このような観察データの蓄積と分析の積み重ねにより、子どもの言語発達を明らかにすることができる。本研究はそうした研究が増えていく足掛かりの一つとして位置づけられる。
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