本研究は、持続可能な社会の実現に向けてグローバルな諸課題を学習し、社会参画する資質や能力を育成することが新学習指導要領で重視されているにも関わらず、高等学校の世界史教育では地球的な諸課題への対応を目指した実践的研究が少ないことに着目し、「現代の諸問題」を軸とした高等学校世界史教育内容開発を進めることを目的とした。具体的には、次の3点に基づいて研究を進めた。 1、「現代の諸問題」を軸とする世界史の教育内容を設け、ESDの視点を導入した単元開発を行う。 2、「現代の諸問題」に関わる世界遺産を教材とした教育内容開発を進め、その意義を検証する。 3、「現代の諸問題」に基づく議論を導入することで、学習者の価値観の変容を分析する。 これらの指針に基づき、本研究では昨年度の奨励研究の成果と課題を踏まえながら、ESDの視点に関わる現代の諸問題の一つとして「平和と安全の問題」を設定し、それに基づく世界史教育内容として単元「中東世界の宗教対立」の開発を行い、実践で検証した。 授業では、世界遺産等の教材をタブレット端末で共有し、イスラム社会の多様性と寛容性について理解を促した。また、宗教対立と中東紛争をテーマとしてグループでの意見交換や議論を行い、タブレットを用いてそのデータを記録した。その実践データから学習者の価値観変容のプロセスを分析し、歴史的思考力と論理的説明力がどの程度獲得されたかを検証した結果を学会で報告した。 この研究の成果は、1つはESDの観点に基づき、「現代の諸問題」を軸とした世界史教育内容の一事例として単元「中東世界の宗教対立」を開発し、授業を実践したことである。2つには、その実践記録の分析から、イスラムについての学習者の認識が多面的に変容しており、歴史的な経緯から現代の諸問題を解決するための視点が示されたことである。
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