本研究では、情報社会において必要な能力である編集力に焦点を当て、中学校国語科において編集力を高める授業を開発し、その実践から得られた成果と課題を考察することを目的として行った。 授業の開発にあたり、文献研究および編集者への調査を行った。文献研究では、戦後から現在までの中学校国語教科書から編集に関連する学習を抽出し、「発信メディア」「編集技術」「編集学習の意義」の三点から考察した。これらの検討から、発信されるメディアが多様化してきている現状や、編集学習には書くことをメタ認知する意義や、発信者の意図を学ぶことが重視されてきたことが明らかとなった。雑誌編集者へのインタビューでは、編集者の専門性として「編集方針」を「編集技術」に反映させていくことが重要であることが分かった。「編集方針」とは、発信メディア、想定する読者層、コンテンツ、コストの検討によって構成される発信戦略である。また、「編集技術」にはテキストを収集、加工、構成する情報活用技術が含まれている。「編集力」とは、この「編集方針」と「編集技術」が相互作用的に組み合わさったプロデュース力であると本研究では位置づけた。 続いて授業の開発に着手した。授業では「編集方針」の形成と「編集技術」の活用の双方のプロセスを支援することに留意した。開発した単元では、グループでインタビュー取材を行って雑誌を編集する学習を実践し、編集プロセスでどのような思考やつまずきが見られるか検討した。 編集力を高める授業では、編集されるテキストが多様に解釈が広がるものが適しているということ、発信メディアとコンテンツには相性があること、非連続テキストなどの情報デザイン的な要素が必要なことが実践によって明らかになった。本研究の今後の課題は、学んだ編集力が他のメディア表現にどのように転移されるか、国語科カリキュラムにどのように位置づけていくかという点があげられる。
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