本研究の目的は、小・中・高を通じて天文分野の空間認識を高める、月の満ち欠け、食現象、惑星の視運動等の「月・惑星の運動」の系統的な学習プログラムを新たに開発するための基本的知見を得ることである。 研究方法では、小・中学生、高校生に対する質問紙調査、面接調査を行った。児童・生徒が持つ、「月の満ち欠け」、「金星の満ち欠け」、「食現象」、「惑星の視運動」に対する理解の特質を、かげのしくみの理解との関係から明らかにした。これまでの授業実践の評価に基づき、空間認識を高める具体的内容として、アメリカやイギリスの理科カリキュラムに見られる「観察活動」、「光とかげ」、「相対運動などのモデル化」を導入した授業を試行した。授業後、その評価を行い、児童・生徒の空間認識の変容について調査した。 中学生、高校生の食現象に関する調査からは、多くの生徒に、「日食」と「月食」との現象や、食現象と月の満ち欠け現象とを混同している傾向が見られた。また、食現象を三次元的に捉えることができない実態が、かげのしくみの認識不足からも明らかとなった。 空間認識を高める具体的内容である「光とかげ」、「相対運動などのモデル化」などを導入した授業として、小学校では月の満ち欠け現象に関して『物体そのものにできるかげ(陰)』と『物体の外にできるかげ(影)』の2種類のかげに着目した授業実践を行った。2種類のかげの区別の内容を中心に、観察活動やモデル化などを密接に関連させた授業展開を行った結果、月の満ち欠けに関する理解度が大幅に増加した。加えて、中学生への「食」現象の授業実践では、上記の2種類のかげに加え、『2つのかげの間の空間を占めるかげ(隠)』の3種類のかげの区別を学習プログラムに導入することで、多くの生徒に視点移動能力の発達傾向が見られ、空間認識能力の高まりが確認できた。
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