中性子星を含む低質量X線連星のX線光度は、1ミリ秒から10年までの様々なタイムスケールで変動している。1日より短いX線光度変動は、多くのポインティング観測により調べられ、理論モデルとの対応も精力的に行われている。その一方で、1日より長い時間変動については、あまり研究されていない。突然10倍以上に明るくなるトランジェント天体の増光(アウトバースト)が、矮新星との類似性から、降着円盤の熱的不安定性で生じる(loar type : Mineshige & Osaki 1985)と考えられている程度である。本研究では、通常のアウトバーストと同様にスペクトル状態遷移を伴うが、通常のアウトバーストに比べて、光度変化が小さく、タイムスケールも短い光度変動(ミニアウトバースト)の存在を見つけ、その原因解明に取り組んだ。MAXI/GSCとSwift/BAT衛星の両モニタリング観測データの中から、中性子星を含む低質量X線連星でスペクトル状態遷移を起こしている天体を選び出し、次の三点について解析を行った。 1、ハード状態からソフト状態の遷移光度、および、ソフト状態からハード状態の遷移光度を決定した。 2、通常のアウトバーストとミニアウトバースの定義を明確にして、分類した。 3、通常のアウトバーストとミニアウトバーストの類似点、相違点をまとめた。 この結果、降着円盤不安定性モデルにおいて、loar typeと同様に提唱されたものの観測例がなく、これまで注目されてこなかったpurr typeと呼ばれる不安定性により、このミニアウトバーストが起きているという結論に至った。本研究成果は、「X-ray variability with spectral state transitions in NS-LMXBs observed with MAXI/GSC and Swift/BAT」として、論文にまとめた。 本研究は、中性子星を含む低質量X線連星を対象にしたものであるが、ブラックホールを含む低質量X線連星にも同様の降着円盤が存在するので、purr typeの不安定性が観測される可能性がある。ブラックホールを含む低質量X線連星であるSwift J1753.5-0127では、アウトバーストの後、500日程度のタイムスケールで数倍程度の光度変動が繰り返されていて、この光度変動の大きさとタイムスケールからミニアウトバースト、つまり、purr typeの不安定性が起きていると推測できる。このように本研究は、中性子星だけでなく、ブラックホールも含めて、降着円盤の熱的不安定性の解明に新たな知見をもたらすものとなった。
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