複数成分が混在する海洋環境試料において、構成成分ごとにアミノ酸組成等を分析するための前処理技術の高度化を目的とした。今回は、造礁サンゴの構成成分の一つである共生藻をその他の成分から取り除き精製する技術の改良を目指した。サンゴの共生藻を取り出そうとすると、どうしても宿主細胞のサンゴ組織とサンゴ骨格が混ざってしまう。この状態から共生藻だけを取り出すため、他の成分から分散させることを試みた。 サンゴ組織、共生藻、サンゴ骨格が混ざった混液を遠心分離すると、サンゴ組織画分(上澄み成分)は他の成分から取り出せるが、共生藻画分(沈殿部分)はサンゴ組織とサンゴ骨格が混ざった状態となる。共生藻画分に分散剤のピロリン酸ナトリウム溶液に再懸濁させてから振盪し遠心分離することを繰り返すことにより、構成成分が絡みついた状態から、ある程度分散された状態にすることができた。その後、コロイダルシリカを用いた密度勾配遠心法により、共生藻とサンゴ骨格を分離することができた。ただし、一部の共生藻画分については、精製の過程で壊れたり、残留サンゴ組織によってサンゴ骨格が絡みついて分散させられなかったために、最終的な共生藻画分の回収率は17%と低かったが、顕微鏡観察(400倍)によって他の成分が取り除かれていることが確認できた。 共生藻の精製段階が進んでも、全体的にはアミノ酸組成に大きな変化は見られなかったが、アミノ酸の種類によっては比率の増加または減少傾向が見られた。これは來雑物の影響が少なくなってきたためであると考えられる。今回はアミノ酸態窒素同位体比分析まで行うことができなかったが、同位体比分析の場合は、アミノ酸組成以上に夾雑物の影響を受けるので、顕微鏡観察で成分の混在が確認できない程度に精製されている必要がある。今回の方法は同位体比分析にも有用であると考えられる。
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