本研究は、環境因子としての放射性物質が及ぼす植物の脂肪酸組成への影響を調べることにより、原発事故由来の直接的な環境汚染ではなく、食物連鎖を介した間接的な環境汚染に関する知見を得ること目的としてサンプリング調査を実施した。当初は、福島第一原発周辺でのサンプリングを予定しており、実際に自治体(大熊町)の許可も得て、同行者の手配も終了していたが、立ち入り直前に所属部署から同町への立ち入りを自粛するよう指導があったため、立ち入り制限地域周辺(南相馬市や伊達市等)にサンプリング地域を変更した。 サンプリング地域では、空間線量(地表1m)を測定しながらサンプリング場所を探索し、実際に植物を採取した場合は地表面(1cm)の空間線量も測定した。今回の調査対象は、多くの調査地点で優占種となっていたススキ及び平成26年度の調査対象だったツユクサとした。なお、空間線量の値は約0.1~約22μSv/hだった。 採取したサンプル(葉及び茎)は、凍結乾燥で含有水分除去、分離・安定性向上のためのメチルエステル化、Siカートリッジでの精製の順に前処理を行い、分析用サンプルとした。脂肪酸組成分析は、脂肪酸メチルエステル分離用カラムを使用した水素炎イオン検出器付ガスクロマトグラフ(GC-FID)により、同定・定量を行った。 GC-FID測定後、サンプル毎の脂肪酸組成を比較した結果、サンプリング地点毎には差が見られたものの、空間線量との間には相関性は確認できなかった。植物種によっては、大気汚染物質等による組成変化も報告されており、他の要因がもたらす影響も精査しなければ、仮に放射線量による組成変化が起きていても判別できない可能性がある。また、現地調査において除染・復旧作業が原因と考えられる植生変化も散見されたため、今後も調査を継続する場合は、調査対象を草刈・伐採等の可能性が殆どないような植物種に絞り、周辺の環境変化も含めて総合的に調査していく必要がある。
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