研究実績の概要 |
古来より「紅葉」は人々に関心を持たれる現象である。その生物学的現象に関して、「どのように紅葉するか? 」という生理学的メカニズムは多くの研究者によって調査され、アントシアニンの合成によって起こることがわかっているが、その一方で「何のために植物は紅葉するか? 」という紅葉の適応的意義(生態的意義)に関しては、多くの仮説(広告旗仮説、光保護仮説, 共進化仮説など)が提唱されているが、いずれも決め手となる検証結果は出ていない。 そこで、紅葉の適応的意義(生態的意義)を明らかにするため、植物の葉の光合成機能に着目して以下の新仮説(『機能スイッチング仮説』)を提唱し、その検証を行った。 (仮説)『植物は老化した柵状組織にアントシアニン(赤色色素)を合成し、柵状組織を赤いスクリーンに変えることで、まだ光合成機能の残る海綿状組織の光環境をより光合成の効率のよい赤色光に切り替える。その結果、主となる光合成機能を柵状組織から海綿状組織へと切り替えることにより、機能的光合成寿命の延長を行っている。』 イロハモミジを材料に実験・観察を行い、以下の結果を得た。 ① : 緑葉→紫葉(緑+赤)→紅葉(最初裏面が緑色、その後裏面も紅葉する)のように色の変化があった。 ② : クロロフィル蛍光を利用したETR(electron transport rate)を用いて全葉の光合成機能を測定したところ、緑葉<紫葉<紅葉(裏面緑色)の順になり、紅葉の進行とともに光合成機能の向上が見られた。 葉の並皮切片が上手く作成できず、この仮説を柵状組織・海綿状組織に分けて検証することはできなかったが、葉全体としては海綿状組織のクロロフィルが分解することによる葉全体の光合成機能の低下は起こっていないと推定された。
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