研究実績の概要 |
九州地方を中心としたヤチグモ類5属27種について、ミトコンドリアDNAのCOIと核DNAの28SrRNA領域の塩基配列を用いて分子系統解析をおこなった。系統解析のためサンプルの一部に東北、中部、近畿、四国産の個体を加えた。このうちCOIは多くの個体で配列を読むことができたが、28SについてはDNAの増幅はできたもののシーケンスの結果が芳しくなく、信頼しうるデータはCOIに比べ少なかった。そのため解析についてはCOIで得られた480bpの塩基配列情報をもとに最尤法、ベイズ法によって系統樹を作成した。まず、さまざまな形態形質を持つ種を包含する日本産Coelotes属について、すでに配列が判明しているヨーロッパ産のC. atropos (属模式種), C. terrestrisと比較し、系統的な整合性について検討した結果、今回解析した日本産の全てのグループでヨーロッパ産のグループとは異なるクレードを形成した。また九州、四国で多様な地理変異を生じるサイゴクヤチグモ種群の3種について、既存の形態形質による分類を塩基配列情報から再検討した。その結果、別種として記載されたトウワヤチグモとトサノヤチグモ(いずれも雌のみで記載)は同種の個体変異であることが示唆されたため、前者を後者の新参シノニムとして記載準備中である。同時に四国から得られた正体不明の雄がこれらの雄であることも判明した。さらに九州において多様な変異を生じるサイゴクヤチグモはこれまで通り同種として扱うのが妥当であることが分かった。その一方で本研究では、形態形質をもとに同じ系統に分類されていたCoelotes属の各種群に加え、Tegecoelotes属3種、Iwogumoa属3種も解析に加えたが、これらは分子系統的にも同様のグループを形成し、既存の分類が正しいことが裏付けられた。以上のように、DNAの塩基配列をもとにした分子系統解析は、ヤチグモ類において古典的な形態形質での系統分類を補完、修正する上で非常に有効であることが分かった。
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