研究実績の概要 |
アオモンイトトンボでは雌のみの体色二型、つまり、褐色の雌型雌と、雄に似た青緑色の雄型雌が存在し、限性遺伝によって決定される。沖縄本島では、本州等にはない特徴として、雌二型の頻度が地域によって大きく異なり、さらに、幼虫においても褐色系と緑色系の体色変異がある。もし、幼虫の体色と成虫の体色がリンクするのであれば、幼虫期の体色が成虫期の雌の体色二型および二型頻度を決定づける可能性があり、この仮説を検証する調査を行った。 沖縄本島南部の糸満市真壁の農業研究センターの池で行った成虫頻度調査では、雄型雌2匹・雌型雌33匹が得られ、10数キロしか離れていない垣花にあるクレソン畑の調査では雄型雌20匹・雌型雌11匹が得られ、雌二型頻度に大きな差があった(χ=23.00, df=1, p<0.001)。しかし、終齢幼虫の雌の体色は、真壁では褐色系9匹・緑色系5匹、垣花では褐色系9匹・緑色系4匹で差がなかったので(x=0, df=1, p=1)、成虫の雌二型頻度の差は、幼虫の体色頻度とパラレルな関係ではなかった。また、この終齢幼虫を飼育した結果、真壁の褐色系9個体から雄型雌1匹・雌型雌8匹、緑色系5匹から雌型雌5匹が羽化し(χ=0, df=1, p=1)、垣花の褐色系9匹から雄型雌6匹・雌型雌3匹、緑色系5匹から雄型雌4匹が羽化し(χ=0.36, df=1, p=0.55)、幼虫の体色は成虫の体色とリンクしていなかった。さらに、野外の雌成虫が生んだ卵を飼育して得られた雌の終齢幼虫はすべて褐色系であり(n=13)、幼虫の体色は環境による可塑的な影響を受けると考えられ、一定の環境下では幼虫の体色に変化がなかった。したがって、本種において幼虫期の体色変異が成虫の雌の体色二型を決定づける可能性は否定された。環境要因として1年間の水温をロガーを用い各3地点測定した結果、真壁では24.4℃±6.0 (平均±SD)、垣花では23.6℃±5.2で差があった(t=8.4, df=17374, p<0.001)。しかし、両者とも本土よりはるかに高い水温であり、雌二型頻度の地域間変異に影響を与えるのかどうかは不明である。(799字)
|