【目的】 全国の野猿公園で、ニホンザル(Macaca fuscata)の個体数管理は大きな課題である。サルの個体数増加抑制には給餌量削減が必要であるが、急激な削減は農作地への出没を促す等の危険があり、総給餌量を増やさずに、低順位個体の採餌量を増やす(採餌量の順位格差を縮める)給餌方法の確立が、本研究の究極的な目標である。その目標に向けた一環として、27年度は、採餌量の順位格差縮小のヒントを得るべく、給餌環境の違いが個体の採餌行動に及ぼす影響を検証することとした。具体的には、幸島(宮崎県串間市)のサルが、管理者から播かれた小麦粒を地面から採る際に、①舌で舐め取る行動と、②指でつまんで口に運ぶ行動の2種類を織り交ぜることに着目し、「幸島個体は、その時の餌分布条件に応じて採餌効率が高くなるよう、行動を選択している」との仮説を立て、数種類の餌分布条件を実験的に設定し、各条件下で2種類の採餌行動の生起頻度を測定するというものである。 【方法】 下記の各種餌分布条件下で、30cm×59cmの実験区画に小麦を播いて対象個体に提示し、2種類の行動の生起パタンを記録した。2種類の行動選択に影響を及ぼす要因と仮定したのは、空腹度、小麦粒が播かれた地面の形状、及び小麦粒の密度である。その際、実験的に設定した餌分布条件とは、空腹度については、管理者が小麦を播く「管理者給餌」の前(空腹時)と後(満腹時)の2条件、地面形状については、平坦と凸凹の2条件、小麦密度については、地面の小麦密度を変えた4条件である。 【成果】 空腹度における2条件間での違いは明確ではなかったが、土地が凸凹の場合や小麦分布密度が低いほど、行動②の生起頻度が高いことが明らかになった。これらの結果は、(小麦の存在を確認し易い)平坦な地面に、高密度で分布する小麦を採るには、顔を地面に近づけて舌で舐め取る(行動①)方が効率的であることを示唆している。
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