専門家でない一般の人々が野生哺乳類本来の姿を知ることは、人間と野生哺乳類の共存について市民レベルで考えていくうえで重要である。しかし、現代の日常生活では野生哺乳類に遭遇する機会は少なく、一般的な観察会を開催しても哺乳類に遭遇できない可能性が高い。本研究では専門的な野生哺乳類調査に用いられる手法や機材を用いて、一般の人々が簡便かつ安全に森林で野生哺乳類を実際に観察することを目的とした体験型観察プログラムを創作・試行し、プログラムの評価・課題について検討を行った。 北海道富良野市山部地区在住の小学生とその保護者の計26人を被験者として、創作した4つのプログラム(センサーカメラ調査・痕跡調査・ライトセンサス・コウモリの夜間調査)を体験してもらい、アンケート調査・聞き取り調査・行動観察の3点からプログラムの評価を行った。すべてのプログラムで個体を直接観察(目視・聴覚)すること、現地で映像・痕跡を確認することができ、臨場感ある体験・観察ができた。アンケートおよび聞き取り調査から、被験者らが全てのプログラムに強い興味を示すことがわかった。被験者らの居住地周辺には良好な森林環境が整っており、プログラムの体験以前にも野生哺乳類に遭遇・目撃した経験があったが、計画的に遭遇・観察する機会は少なく、その方法も知られていないことが示唆された。行動観察から、指導者から説明・解説を受けるより、被験者同士で自由に観察したほうが、より積極的に行動・考察を行っていることがわかり、短時間でも多くの情報を吸収することが出来ると考えられた。しかし自由な発想で観察することと、正確な知識・情報を伝えることの両立が難しく課題が残った。コウモリの夜間調査は安全な場所を実施場所としたが、足元の障害物に躓く被験者がおり、夜間歩行を伴う場合は危険要因の共有や行動範囲の制限など更なる安全対策が必要であった。
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