海産無脊椎動物であるホヤ類は海水中において様々な基質に強固に接着している。接着部位は被嚢と呼ばれる体の表面を覆う組織の一部であるが、接着機構および接着物質については未解明の状態である。本研究ではホヤ類が水中接着に用いる分子を、タンパク質および低分子のレベルで探索した。 第一段階(4月~9月)ではホヤの種による接着様式の違いを確認し、被嚢から接着突起と名付けた部位を大きく突出させるスジキレボヤを主たる研究材料として確定した。腹部の被嚢を切除したホヤを抗生物質入りの濾過海水中で飼育することにより、クリーンで若い接着突起を多数誘導する手法を開発・改良し、接着は基質への密着後24~48時間で起こることも確認した。光学顕微鏡および電子顕微鏡による解析により、接着突起は血管様の盲単状の管であること、8層の構造を持つことが示された。特に先端部では顆粒の分泌が著しく、被嚢細胞が多い様子が観察された。 第二段階(5月~2月)ではタンパク質を抽出しにくい接着突起から、安定した抽出ができるようにバッファーを改良してSDS-PAGEにより分離した後、プロテインシーケンサーにより接着突起特異的に増加するタンパク質としてEF-lalphaとtubulinを同定した。EF-lalphaは細胞の伸長因子であるが、細胞膜に存在すると細胞接着に関わるという報告もあるため、接着因子のひとつとして有望である。タンパク質抽出法の改良は2次元電気泳動に適したサンプルの調整を可能とするため、今後の接着タンパク質探索をより一層加速させることができる。低分子に関しては質量顕微鏡(iMScope)を用いて接着突起凍結薄切片を観察し、接着突起被嚢に局在する低分子化合物を12種発見した. それらは接着に関与する可能性がある分子と考えられる。 これらの成果は日本動物学会と生物学技術研究会にて口頭発表により公表した。
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