コウベモグラMogera woguraは本州中部以南、四国、九州に分布する日本固有種である。本種の体サイズの地理的変異は非常に大きいことが知られている。愛知県名古屋市や安城市においては、他地域に比べて大きな体サイズを有する本種個体群が存在することが示唆されているが、捕獲調査が十分に行われておらず詳細は明らかではない。本研究では、愛知県や岐阜県の複数箇所において本種の捕獲調査を行い、同地域における本種個体群の体サイズを調べた。さらに、捕獲場所の環境要因を調べ、同地域において本種が大型化する要因を明らかにした。 2015年4月から2016年3月まで、愛知県名古屋市、安城市、豊田市、春日井市、および岐阜県美濃市で合計20回の捕獲調査を行った。合計16頭の生体捕獲を行い、捕獲個体の体重と全長を測定した。個体は体サイズ測定後、速やかに放獣した。 愛知県の平野部(名古屋、安城、春日井)農地で捕獲された個体の平均体重144g (n=13)は、豊田市や美濃市の山間部で捕獲された個体の平均体重92.3g (n=3)よりも大きく、また先行研究における平均値117gよりも大きかった。愛知県平野部農地で捕獲された個体の体重を、捕獲場所の環境(農業形態)ごとに比較した結果、捕獲個体の体重は捕獲場所の環境によって有意に異なり(U検定、p<0.05)、畑(121g)や水田(134g)よりも果樹園で捕獲された個体の体重(155g)が最も重かった。 本研究により、これまで未解明であった愛知県周辺のコウベモグラの生息状況が明らかとなり、同地域平野部における本種個体群は他地域よりも大型の体サイズを有することが明らかとなった。この原因は明らかではないが、本種の体サイズには農業形態に応じた土壌硬度や肥沃度の違いが影響している可能性があった。 申請者は、年間を通じてこれらの研究成果を地域の研究集会や配布物等を通じて広く一般市民や営農者に向けて解説し、本種の生態や地域の自然史への人々の理解を促した。
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