研究実績の概要 |
【研究目的】抗悪性腫瘍薬であるダカルバジン(DTIC)は, 特徴的な副作用として投与時に血管痛を惹起することが報告されている. この原因物質としてDTICの光分解物である 5-diazoimidazole-4-carboxamide(Diazo-IC)が知られているが, 血管痛発現リスクを抑制する本質的な回避方法が確立されていない. 本研究ではDTICの光化学的特性に着目し, DTICの光安定性改善を指向した製剤設計を検討した. 【研究方法】DTICの光化学的特性を, UV/VISスペクトル解析, reactive oxygen species (ROS) assayにて評価した. DTIC光安定性改善を指向した製剤処方を検討するため, 各種ラジカルスカベンジャー(1mM)を添加したDTIC(1mM)に擬似太陽光(250 W/㎡)を照射し, DTICの安定性およびDiazo-ICの産生量について精査した. ラジカルスカベンジャー添加によるDTICの薬物動態への影響を精査するため, ラジカルスカベンジャーを添加したDTICをラットに静注(1mg-DTIC/kg)し, 血漿中DTIC濃度推移を解析した. 【研究成果】DTICは330nm付近に極大吸収(モル吸光係数17,600 L・mol^<-1>・cm^<-1>)を持ち, 光照射時にROSを産生したことから, DTICの高い光吸収性および反応性を示した. 各種ラジカルスカベンジャー(1mM)添加によりDTICの安定性改善ならびにDiazo-ICの産生抑制を認めた. 特に, システイン(Cys)を添加した場合, 光照射3分後のDTIC分解およびDiazo-IC産生それぞれ約34%, 86%抑制し, DTICの光安定性改善に有用な添加剤であることを示唆した. Cys (0.67mg/kg)を添加/非添加したDTICをラットに静注した際, DTICのk_α, k_β, AUC_<0-inf>は両群間で有意な差を認めず, Cys添加はDTICの薬物動態へ影響しなかった. 以上より, Cys添加はDTICの光安定性を改善し, DTIC投与時の血管痛発現リスク軽減に有用な手法であることが明らかとなった. 本手法は, DTICのみならず, 光安定性に課題を有する薬物の光安定性改善, さらには副作用回避に有用なアプローチになるものと期待する.
|