研究実績の概要 |
【研究目的】 精神疾患の原因は心理社会的ストレスなどの環境要因が関連しており、治療法は十分確立されていない。ストレスは抑制性GABA作動性神経の機能を低下させることが知られており、精神疾患発症の要因の一つと考えられている。GABA受容体発達に関与する転写因子ヒトNeuronal Per Arnt Sim (PAS)Domein Protein 4 (NPAS4)の発現が海馬や皮質で顕著に低下していることを見出した(J. Neurochem., 2010)。以上より、脳のホメオスタシスを維持する要のNPAS4が、ストレス応答性に発現が抑制される転写因子であると同定され、ストレスによるNPAS4の発現減少は、GABA作動性神経系の機能異常を引き起こし、精神疾患発症に至ると考えられる。従って、NPAS4の発現促進により、精神疾患発症を抑えられると期待される。本研究では、NPAS4の発現を誘導する化合物を探索し、NPAS4およびその下流因子をターゲットとする新規精神疾患治療薬の開発を究極の目的とする。 【研究成果】 (1)ヒトNPAS4プロモーターを組み込んだ神経細胞株の作製 : ヒト細胞株由来のゲノムからクローニングしたヒトNPAS4プロモーターを組み込んだレポータープラスミドを神経細胞株に導入し、ルシフェラーゼアッセイを用いてNPAS4プロモーター活性を測定する系を構築した。 (2)NPAS4を誘導する化合物の探索と解析 : 候補化合物を(1)の細胞培養系に添加し、プロモーターアッセイを行い、既知の化合物ライブラリーから、NPAS4誘導に有効な化合物を絞り込む。我々はこれまでに、神経伝達物質受容体に作用する化合物を中心にヒトNPAS4のプロモーター活性を上昇させる候補物質を数種類見出している。これらの候補化合物による NPAS4プロモーター活性誘導に関する細胞内シグナル伝達機構について追究が必要である。 本研究はヒトの治療に応用することを目標とするため、今後in vivoにおいても、候補物質の絞り込み、シグナル伝達機構の解明が必要であると考えられる。
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