本研究では、抗がん剤誘発肝障害モデルにおける肝障害と精神機能異常の関連について検討を行い、以下の成果をあげた。 これまでの予備的な検討では、Wistar雄性ラットに対して抗がん剤(ドキソルビシン・シクロフォスファミド)を週1回投与し、最終投与1週間後の時点において行動薬理学的検討を行い、精神機能異常が認められていた。今回は最終投与24時間後の時点における精神機能異常についても検討を行い、最終投与24時間後においても同様に精神機能異常が認められた。 そこで本病態モデルに対して、数種類の肝庇護薬を投与し、抗がん剤による精神機能異常に対する改善効果について検討した。種々の検討の結果、グリチルリチン酸投与は自発行動量には影響を与えない一方で、抗がん剤投与による体重減少を抑制し、さらに明暗試験における明室滞在時間の減少についても有意に改善した。 また抗がん剤による副作用発症メカニズムの一つに、抗がん剤による過剰な酸化ストレスの産生があげられている。また抗がん剤の投与により、生体内の抗酸化物質が低下することも報告されている。そこで、本病態モデルにおける抗がん剤投与による酸化ストレスの関与について、代表的な抗酸化物質の一つであるグルタチオン量を測定することで評価した。抗がん剤投与により、有意ではないものの肝臓及び脳中総グルタチオン量の減少が認められた。 以上の結果より、抗がん剤誘発の肝障害・精神機能異常には、生体内レドックスバランスの破綻の関与が示唆され、さらに肝庇護薬のグリチルリチン酸がこれらの症状に対して、治療薬になる可能性が見出された。
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