【研究目的】 Methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)の院内伝播株における疫学的解析には様々な遺伝子的手法が用いられるが、いずれも解析に数時間から数日間を要する。近年導入が進んできた質量分析装置MALDIBiotyperは、得られた検体のスペクトルパターンをデータベース(DB)と比較し、その一致度で類似する10菌株を推定することが可能である。これは測定開始から菌種の同定まで数分で完了するため迅速性に優れており、菌種の識別能力は種々の検討がなされているが、菌株レベルでの相同性解析能力はまだ検証段階である。質量分析装置を用いた菌株識別が可能であることが明らかになれば、同定と同時に疫学的解析が可能であり、院内伝播株の早期発見につながる。 【研究方法】 2013年4月~2015年3月まで北海道大学病院細菌検査室で分離・同定されたMRSA保存株107株についてCicaGeneus Staph POT KIT(関東化学株式会社)にて遺伝子型(POT型)を決定した。MALDI Biotyper によってマススペクトルパターンを決定し、得られたピークにPOT型を含んだ名称を付与してDBに登録した((例)hokudai. MRSA-93-155-27-13s150)。DBの登録後、2015年4月~12月に分離されたMRSA臨床分離株83株についてMALDI Biotyperで解析した。得られたスペクトルに対してDBに保存された菌株のスペクトルパターンとのマッチングを行い、菌株の一致度を示すスコアが上位10菌株に同定されたPOT型既知の菌株情報と、臨床株のPOT型が合致するか確認した。 【研究成果】 対象株のうち34/83株(41.0%)ではDB登録株内に同一POT型が含まれており、測定結果との比較が可能であった。そのうち28/34株(82.4%)ではMALDIで同定された上位10菌株の候補内にPOT型が合致する株を含み、遺伝子型の推定が可能であった。 MALDI Biotyperを用いた測定において、自施設での検出株に遺伝子型や患者情報を付随してDBに登録、蓄積していくことにより、同一由来株の推定が可能であることが示唆された。
|