研究実績の概要 |
研究目的 : 慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は器質化した血栓より肺動脈が狭窄・閉塞し、肺動脈圧が上昇して心不全を発症する疾患である。血栓部位に存在する細胞群の過剰増殖が病変増悪に関わっていることが明らかとなっているが、これら細胞群の性状や過剰増殖の分子メカニズムは未だ解明されていない。現在、CTEPHにはバルーン肺動脈形成術(BPA)あるいは肺動脈内膜血栓摘除術(PEA)の治療が行われているが、中枢側の狭窄・閉塞病変を解除することで末梢側の狭窄・閉塞も自然経過で軽減・退縮する症例が数多く見られた。このことから、肺動脈にかかる拍動刺激がCTEPHの閉塞・狭窄病変を退縮させるのではないかという点に着目して研究を行った。研究方法 : PEAを受けたCTEPH患者の手術検体より細胞を分離・培養し、細胞伸展装置を使用してCTEPH患者から単離・培養された培養に拍動刺激(CCS)を与えて細胞増殖に関わるシグナルの検討を行った。また、CTEPH患者においても肺血管収縮物質であるEndotheli-1(ET-1)が過剰発現していることから、ET-1と拍動刺激の相互作用についての検討も行った。研究成果 : 細胞の分離培養が成功した患者のサンプルでは平滑筋と同様のマーカーの発現が見られた。また、ET-1, エンドセリン変換酵素(ECE-1)、エンドセリンAレセプター(ETAR)の発現量は患者によって違いがある事から、平滑筋様の細胞ではあるが患者によって性質に違いがある細胞であることが示された。患者細胞に拍動刺激を加えると、過剰刺激である20%では細胞増殖マーカーであるERK1/2の発現が促進されていた。ET-1刺激でもERK1/2の発現は促進するが、CCSとET-1を組み合わせて刺激すると、ERK1/2活性は抑制される傾向を示した。この結果よりはCTEPHの閉塞・狭窄部位より遠位の病変においては、治療により血流および拍動を回復し適切な伸展刺激を与えることでET-1による細胞増殖が抑制される可能性が示唆された。
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