研究実績の概要 |
先に申請者は炎症および臓器線維化に関連するmiRNAとしてmiR-223を同定し、さらにそれが好中球機能発現調節に関わっている知見を得た。本研究では、まずC57/BL/6(黒毛)マウスを用い、miR-223ノックアヴトマウス(KO)を作成した。次にワイルドタイプとKoマウスの背部に皮膚全層欠損創を作成し、皮膚潰瘍モデルを作成し潰瘍作成後の創面積を計測、創傷治癒速度を比較した。さらに、創傷治癒遅延モデルとして、ストレプトソトシン(STZ)誘導型のI型糖尿病マウス、遺伝性肥満(db)発症のⅡ型糖尿病マウスを用い、それぞれのmiR-223ノックアウトマウス(KO)を作成し創傷治癒速度を比較した。 結果は、miR-223KOマウスは潰瘍面積測定と組織学的評価から、有意に創傷治癒遅延が認められた。さらに糖尿病病態においては、I型、Ⅱ型糖尿病マウスの両方でより顕著な創傷治癒遅延を認めた。 つまり、miR-223Koでは好中球主体の炎症期の制御ができず、創傷治癒遅延をきたすと考えられるが、慢性炎症病態である糖尿病病態においてはmiR-223による炎症期の適切な制御がさらに重要であることが示唆された。糖尿病患者における創傷治癒遅延は血流障害、神経障害、易感染性のため難治性で長期の治療期間を要する。糖尿病患者数の増加とともに1兆2,000億円越える糖尿病の年間医療費の一因にもなっている(平成25年国民医療費の概況(厚生労働省))。炎症関連miR-223の機能解析は、易感染性、慢性炎症病態をもつ糖尿病性創傷治癒遅延の原因解明、また新しい治療薬の開発につながるものと考えられる。
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