研究課題
奨励研究
現在、臨床研究が進められている腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルスHF10の投与方法として、全身性がんや転移がん等にも治療範囲を広げるためには、末梢血管からの全身投与法の確立が求められる。本研究は、HF10を抗腫瘍リンパ球に吸着させることでリンパ球を運び屋として利用し、HF10の全身投与法の確立を目的とした。HSVの細胞内entryに重要なgD膜receptorを改変しHSVに易感染性としたマウス黒色腫細胞であるB78H1細胞(B78Hlnectin)と、ovalbuminを発現するように形質転換したB78H1細胞(B78H1-ova、B78Hlnectin-ova)を用いて、HF10吸着リンパ球による殺細胞効果を検討した。4種類の異なる性質のB78H1派生細胞に、ovalbuminアレルギーの特殊なTransgenic mouse (OT-1マウス)のリンパ球(OT-1 T cell : ovalbumin産生細胞を傷害)をin vitroで作用させたところ、ovalbumin発現細胞であるB78H1-ova、B78Hlnectin-ovaに対して特異的に殺細胞効果を示す事を確認した。そして、HF10吸着リンパ球の殺細胞効果を観察し、ovalbumin発現かつHSV易感染性であるB78Hlnectin-ovaに対して最も強い殺細胞効果を示す事を確認し、in vitroにおいてHF10吸着リンパ球が抗原選択的に殺細胞効果を示す事を明らかにした。B78Hlnectin-ovaの皮下腫瘍モデルマウスに対してcontrol T cell、OT-1 T cell、HF10、HF10吸着control T cell、HF10吸着OT-1 T cellの5種類の異なる治療群の組み合わせを用い、in vivoでの全身投与(尾注)による抗腫瘍効果を腫瘍サイズの計測により評価した。その結果、他の治療群と比較してHF10吸着OT-1 T cell治療群において最も高い抗腫瘍効果が示された。OT-1 T cellがovalbumin抗原提示しているB78Hlnectin-ovaの腫瘍内に選択的に集族し、OT-1 T cellに吸着したHF10が不活化されることなくB78Hlnectin-ova腫瘍まで搬送され抗腫瘍効果を発揮したと考えられる。本研究結果から腫瘍特異的リンパ球を用いた腫瘍溶解性HSVの血管内投与法の有効性が示唆され、原発巣のみならず転移巣への効果も期待され、今後、難治癌の新たな治療戦略に繋がるものと考える。
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