研究実績の概要 |
[研究目的] 卵巣癌は自覚症状に乏しく早期発見が困難で、しばしば腹腔内に多発性に転移する。近年、腹水中の卵巣癌細胞は免疫細胞との接触でPD-Ll(Programmed death ligand 1)を発現し、細胞傷害性T細胞の機能を抑えることで、癌の腹膜播種が促進されることが報告された。癌細胞のPD-L1はT細胞の受容体PD-1(Programmed cell death 1)と結合し、その活性化を抑制することで、抗腫瘍免疫から回避させること(免疫逃避機構)が知られている。そのため、PD-L1は癌免疫療法の重要な治療標的の1つである。本研究では卵巣癌症例の腹水よりセルブロック標本を作製し、卵巣癌細胞におけるPD-L1の発現と臨床病理学的因子(転帰、腹水量)の関連性、および腹水中免疫細胞との相関性を解析し、予後や癌免疫能を反映するマーカーとしてのPD-L1の有用性を検討する。 [研究方法] 卵巣癌10症例の腹水セルブロックを対象に、PD-L1、マクロファージ(CD68, CD163, CD204)、リンパ球(CD4, CD8CD56)、好中球(Myeloperoxidase)の免疫染色を行い、PD-L1の発現と臨床病理学的因子の関連性、および免疫細胞との相関性を調査した。免疫染色の陽性細胞数には2人で10視野をカウントした数値を平均化したものを用いた。 [研究結果] 卵巣癌症例におけるPD-L1の陽性率は30%であった。Kaplan-Meier法による生存分析(log-rank検定、Wilcoxon検定)を行ったが、PD-L1の発現の有無による統計学的な有意差は認めなかった。次にPD-L1の発現と腹水量、腹水中のCD68, CD163, CD204, CD4, CD8, CD56, Myeloperoxidase陽性細胞の出現数との相関をMann-WhitneyのU検定で解析した。PD-L1陽性例でマクロファージ数がやや少ない傾向が見られたものの、腹水量および炎症細胞数についてもPD-L1の発現の有無による有意差はみられなかった。 すなわち、今回の解析ではPD-L1の発現は、転帰、腹水量、腹水中炎症細胞数との明確な相関はみられなかった。今後は腫瘍本体での炎症細胞数との相関を調べるなど、別のアプローチから研究を進めていく予定である。
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