研究実績の概要 |
【目的】小児の熱性痙攣はほとんどが軽症疾患によるものだが、重篤なケースでは髄液検査が行われる。熱性痙攣の症状を示す疾患には脳炎(髄液による診断が容易)、脳症(24時間以内の早期治療が予後に大きく関係)、痙攣重積症(鎮静剤の投与で完治)がある。特に、脳症と痙攣重積症は全く治療法が異なるにもかかわらず、両者を判別するマーカーがないことから早期診断が難しい。我々は、脳症患者の髄液中α2マクログロブリン(α2M)が顕著に増加し、入院加療にて正常レベルまで低下する症例があることを見出した。本研究では髄液中α2Mが脳症と痙攣重積症を区別するための疾患マーカーとなりうるかを多数症例にて検討する。 【方法】熱性痙攣のうち①重篤な症状を引き起こす脳炎・脳症と②軽症疾患の痙攣重積症・熱性痙攣の2群で比較検討する。髄液中α2Mはα2M Elisaで定量を行い、両群の「有意差」「感度と特異度」をROC曲線で算出し、評価・判定する。 【研究成果】脳炎・脳症(n=15、平均年齢4.0歳)と痙攣重積・熱性痙攣(n=24、平均年齢2.5歳)において髄液中α2M濃度に有意な差が認められた(p=0.016 Mann-Whitney U検定, 脳炎・脳症α2M 5.7±6.5μg/mL, 痙攣重積・脳症α2M 2.6±3.7μg/mL)。また両者の感度と特異度は75.0%、73.3%、Cut Off値は1.76μg/mLであった。一方で両群の血清中におけるα2M濃度は脳炎・脳症(n=11)と痙攣重積・熱性痙攣(n=9)において有意な差は見られなかった(p=0.152 Mann-Whitney U検定, 脳炎・脳症α2M 402±143mg/dL, 痙攣重積・脳症α2M 350±65mg/dL)。これらの結果から髄液中α2Mは脳炎・脳症で有意に上昇し、脳症と痙攣重積症の区別に有用なマーカー候補になると示唆された。
|