研究実績の概要 |
本研究ではSCC抗原の測定値が化学発光免疫測定法(Chemiluminescent immunoassay, CLIA)と蛍光酵素免疫測定法(Fluorescence enzyme immunoassay, FEIA)で極端に乖離する症例について詳細な解析を行うことを目的とした。 過去の報告より, 免疫グロブリン結合型SCCAは測定法間によるSCCA測定値の乖離を引き起こすことが明らかにされている。本症例のSCCAが免疫グロブリン結合型であるかどうかを調べるためゲル濾過分析による解析を行ったところ, IgGより高分子領域にピークは認められず, SCCAの分子量であるほぼ45kDa付近に主なピークが確認された。よって, 本症例では免疫グロブリン結合型SCCAが測定値乖離の原因となっている可能性は低いと考えられた。さらにゲル濾過解析の結果をよく観察すると, SCCAのピークの形状にわずかながらショルダーが確認された。このショルダーの原因をイムノブロット法により解析した。SCCA陽性血清(SCCA ; 約45ng/mL)では45kDa付近にシグナルが1つ認められたのに対し, 患者血清では45kDaのシグナルのほかに, 50kDa及び55kDaに2つのシグナルを確認した。SCCAは糖蛋白質であることが知られているが, Suminamiらは45kDaのSCCA分子のほかに, 過剰なグリコシル化修飾を受けた55kDaのSCCA分子の存在を示している。本症例で認められた5~10kDaのSCCAの分子量増加はSuminamiらが示したような過剰なグリコシル化を受けている可能性が示唆された。ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin, hCG)はさまざまな分子形態が存在し, そのなかの一つに過剰なグリコシル化を受けたhyperglycosylated hCG (hCG-H)が知られている。このhCG-Hは各種hCG測定キットで反応性が異なっており, hCGを測定する上でhCG-Hの反応性の違いは大きな問題となっている。このhCG測定におけるhCG-Hの例と同様に, 本症例におけるSCCAにおいてもグリコシル化によって試薬中の抗体との反応性に変化を与え, CLIAとFEIAで測定値の大きな乖離を生み出したのではないかと考えられた。 これまで測定法間でSCCAの測定値が乖離する症例についての報告では, 免疫グロブリンとの結合によって高分子化したSCCAの存在がその要因となっていたが, SCCAが過剰なグリコシル化によって乖離することを示唆したのは本症例が初めてである。
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