研究課題/領域番号 |
15H02103
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
物性Ⅰ
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
腰原 伸也 東京工業大学, 理学院, 教授 (10192056)
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研究分担者 |
中村 一隆 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (20302979)
羽田 真毅 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (70636365)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2018年度)
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配分額 *注記 |
34,060千円 (直接経費: 26,200千円、間接経費: 7,860千円)
2018年度: 7,930千円 (直接経費: 6,100千円、間接経費: 1,830千円)
2017年度: 8,450千円 (直接経費: 6,500千円、間接経費: 1,950千円)
2016年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2015年度: 14,430千円 (直接経費: 11,100千円、間接経費: 3,330千円)
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キーワード | 光誘起相転移 / 光誘起協同現象 / 隠れた秩序 / 電子線回折 / 非平衡状態 / 超高速ダイナミクス / 隠れた秩序状態 |
研究実績の概要 |
協同相互作用が働く固体物質内での構造変化の知見が光マルチフェロイック・スピンスイッチ等の高速光相スイッチ材料や光エネルギー変換材料開発に必要不可欠である。本研究では、研究代表者らが培ってきた動的電子線回折と振動分光観測技術を駆使し、光励起状態特有の(基底状態では隠れた)構造秩序が有機結晶での光誘起相転移において果たす役割を実証し、非平衡状態にある物質の機能と隠れた秩序との関連解明を目的としている。 この目的達成のために2017年度は、ペロブスカイト構造を持ったCo酸化物(無機)強相関誘電体における強誘電性超高速光制御に挑戦した。この結果、THz域の応答速度を持った強誘電性の増強化効果を世界で初めて発見し、報告することができた(Phys. Rev.Applied 7 (2017) 064016)。得られた実験結果は、THz光と強誘電物質の電子状態がコヒーレントに結合し一体化した、ドレスド状態の出現を強く示唆するものである。本研究開始時の期待をはるかに上回る、想定外の成果であり光科学、誘電体材料科学に幅広い影響を及ぼすものとなった。 さらに二重ペロブスカイト構造を持つCo酸化物無機材料においても、研究計画前倒しによるレーザー光源安定化を活かして、微弱ゆえに観測困難とされて来た遷移金属酸化物の超高速構造変化、とりわけ酸素原子など軽元素の動きを捉える実験に成功し、光誘起イオン移動制御が実現できることを証明した。現在、高速分光データとの比較による、酸素原子移動メカニズムの解明に取り組んでいる。 加えて、今年度購入した分光システムを活用して、電荷-スピン‐構造が強く結合した磁性を伴う中性イオン性相転移物質を開発した。この物質では、光で誘電・磁気複合物性の制御が実現できる可能性があり、今後、光誘起超高速分光、動的構造両面での集中的な研究を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
安定な物質構造に基づく従来型の材料開拓が限界に達しつつある今、協同相互作用が働く固体物質内での構造変化を活用することが光マルチフェロイック・スピンスイッチをはじめとする高速光相スイッチ材料や光エネルギー変換材料開発に必要不可欠である。このような物質群(光誘起協同現象・相転移系)では、基底状態とは異なる光励起状態特有の構造秩序(隠れた秩序状態)の存在が重要であると予測されている。本研究では、この隠れた構造秩序状態が、有機結晶において果たす役割を実証し、物質の機能と隠れた秩序との関連解明に挑戦することを目的としている。 本研究で立ち上げた装置や、準備研究用の装置の活用で、光励起で高感度・超高速に光学特性や非線形光学特性の変化を示す具体的な隠れた秩序状態を、当初計画前倒しの形で各種の有機結晶で確認することに成功した。特に有期結晶に関する研究結果は、昨年のScience誌に続き、本年度はスウェーデン科学アカデミー物理部門誌の招待論文(Physica Scripta 92 (2017) 034005)として掲載されるに至った。 さらに無機結晶に関しても、当初計画を遥かに超える形で、2015年の光メモリ材料に続き、2016年度にはトポロジカル絶縁体Bi2Te3における電子ギャップ光制御に初めて成功し、論文が掲載された(J.Chem.Phys. 145 (2016) 024504)。加えてCo酸化物(無機)強相関誘電体における強誘電性超高速光制御という想定外の成果を世界に先駆け達成し、これも2017年度に論文(Phys. Rev.Applied 7 (2017) 064016)として報告することが出来た。加えてレーザー光源安定化を活かして、微弱ゆえに観測不可能であったCo酸化物などの動的構造観測への挑戦という想定外の拡張研究も成果が上がりつつある。このような状況から区分(1)を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
①2015年度にパルス幅0.3psの電子線回折観測装置に組み込み設置した、試料光応答の温度変化を観測するための温度調整装置を活用し、引き続き当初目標に沿って、具体的な有機物質における隠れた秩序状態の探索を行う。特に昨年までに物質探索に成功した、金属有機錯体での磁性変化を伴う新しい中性イオン性相転移系物質や、パイエルス転移とスピンクロスオーバー転移が強く結びついた物質系に注目し、光誘起電荷移動励起が、結晶全体の電荷移動ダイナミクス、構成分子の構造変化にどのような影響を与えるのか、超高速分光と電子線回折を併用しながら集中的な研究を行う。これにより光誘起構造相転移とスピン-電荷変化が結合した相変化特性の関連を明らかにし、光マルチフェロイクス物質開発に向けた基礎的知見を集積する。 ②当初目的で想定した有機結晶系に加えて、共同的水素結合、π電子軌道変化(さらにはスピン状態転移)と構造転移が強く結合した光応答を示すことが予備実験で明らかとなりつつある有機強誘電錯体[H-dppz][Hca] (dppz = 2,3-di(2-pyridinyl)pyrazine, Hca- = chloranilate)等について、構造観測が可能か引き続き検討する。 ③目的に記した有機結晶に加えて、無機材料での成果を大幅に拡大するべく、Co酸化物などの遷移金属酸化物(強相関系)強誘電体に着目して、電子線回折を用いた超高速光誘起構造変化の観測に引き続き取り組む。特に2016年度に前倒しで達成したレーザー光源の安定化のメリットを活用し、微弱な超格子回折パターンの動的変化の観測に成功しており、分光データと合わせる形で論文準備に着手する。そして光誘起非線形光学特性変化と構造変化の関連解明にまい進する。
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